ワクチン供給は大混乱。予約するまでが大変だ
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▶︎ロジスティクスは一般に、現場に接近すればするほど小分けになり人手がかかり困難さが増す。つまり最後の1マイルが難しい。米国のコロナワクチンは典型的な「ラスト・ワンマイル」問題に直面した
▶︎それ以外にも課題は多く、例えばワクチンを接種する際に必要なインターネットでの問診は、不慣れな高齢者にとって一人でできることではない
2回目の接種が滞っている
アメリカでは、すでに2800万人が新型コロナウイルスに感染し、50万人が死亡した。2月25日のCDC(アメリカ疾病予防管理センター)の発表では、米国全土でこの日までに4600万人、全人口の14%が少なくとも1回目のワクチン接種を受けたが、このうち2回接種を完了した人は2160万人(6.5%)に過ぎないという。
私の住まいのあるニュージャージー(NJ)州でも、77万9000人が感染(米国内州別で最高時は2位、現在12位)。感染率は約8.7%。死亡者2万3000人だ。人口当たりの死亡率は0.26%と、こちらは残念ながら州別で一番高い。昨年初めの流行開始直後に各地区の老人ホームで死者が出た影響が大きい。
NJ州では、12月15日から接種が開始され、2月25日までの約2カ月間に合計187万人が受けたと報告されている。ただし、これも「少なくとも1回以上」の接種の話で、2回目を受けたのは同日までで62万人。州政府のプログラムが受け付けるのは1回目だけで、2回目については「1回目を受けた場所から連絡が来るのを待つ」ことになっている。
この2回目の接種がどの州でも滞り、必ず2回行うという断固たる方針もあいまいになりつつある。「1人が2回完了するより、集団免疫のためには1回目の接種をできるだけ広げた方が良い」という、治験のプロトコール(規約)を無視する意見が出る始末だ。トランプ政権時代の供給計画を大幅に下回り、当局に焦りが出ていることも否めない。それでもNJ州では、「夏までに7割の州民に」という目標をほぼ達成する進捗状況だという。
米国は州によってコロナ対策がまちまちだったが、NJ州のフィル・マーフィー知事(民主党)は、州民との対話に努め、それは州民にとって救いだった。彼は私が投資銀行に勤めていた時代の同僚で昔からナイスガイだ。腎臓癌手術後の病み上がりの体を押し、退院後即コロナ対策の先頭に立った。
マーフィー知事は、「健康の回復なくして経済の回復はありえない」ことを訴え続け、州民の理解を求めた。「州民は皆一つの家族であり、我々は兄弟姉妹だ。助け合い、支え合い、ともにこの困難を克服して行かなければならない」と腹の底から出てくる声で語り掛けた。学校をリモートにする際、落ちこぼれを出さないために、あらゆる生徒がコンピューターを持ち、高速ネットワークにアクセスできるようにと低所得地区を奔走する姿も報道された。
2回接種が難題
市長から来たメール
州政府は、covid19.nj.govというサイトを運営し、州民が必要とする関連情報をすべてここに公開している。州民のワクチン予約もこのサイトを通じて行うことができる(後で触れるが、現状、予約受付は滞っている)。診断の受け方、自分の症状のチェック、アラート、ロックダウン規制、ワクチン接種などの項目があり、またこのサイトに登録しておけばあらゆるニュースが先方から送られて来る。
各市町村もサイトを整備して、私の地元では市運営の予約センターで予約できることになっていたのだが、これも目論見通りには機能していない。
現在は、65歳以上の在住者の接種が優先されているから、私も該当者なので市が設置した接種会場(公会堂等)での接種なら、このサイトで申し込めるはずだった。しかし2月7日に市長から来た連絡には次のように記されていた。
〈1月19日に決定したワクチン接種計画は、州から市へのワクチン供給計画に変更が生じたため実行不可能になった。現在、市の衛生局で予約済みの方も接種は保証できない。州からの供給は市内の医療機関に直接されるのではなく郡に対してなされる。市は州に対して市の医療機関に直接供給するよう要請しているが、当面は変更されそうにない。この供給システムが当初の計画実施に関して大きな不安定要因になっている〉。
2月12日に出た「ノースジャージー・コム」というオンライン情報誌の記事によれば、どうやら州から供給されたワクチンは、郡の接種プロジェクトに優先的に配分されるので、市への供給量は絞らざるを得なくなった。そこで私が住む市への配分の見通しが立たなくなったようだ。
ニュージャージー州
ラスト・ワンマイル
そもそもかかりつけ医で接種を受けるのが一番望ましいが、問い合わせてみるとまだワクチンが到着していない。大型薬局も、私が住む市内の薬局はどれも接種会場に指定されていない。各種の接種プログラムがこのような状況で、現実には私は今、ワクチン接種の予約はできていない。
トランプ前大統領は、ワクチンを開発できれば、すぐにでもパンデミックは収束するかのように喧伝していたが、現実は程遠い。バイデン大統領は、「前大統領の時代に科学者たちは記録的な速さでワクチンを開発した。しかし私ははっきり言っておく。前大統領は何億人もの人にワクチンを接種するというチャレンジに関して果たすべき仕事をしなかった。現在大混乱しており、これを直すには、率直に言って相当な時間がかかる」と語った(2月11日)。
州政府からは2月13日付で、「予約申し込み済にもかかわらず、未だ日時、場所の返答を受けていない方は他の接種システムに申し込んで下さい」と連絡してきた。
国から州まではワクチンが到達するにはするが供給量は限られ、そこから先の供給が大きな壁に直面している。ロジスティクスは一般に、現場に接近すればするほど小分けになり人手がかかり困難さが増す。つまり最後の1マイルが難しい。典型的な「ラスト・ワンマイル」問題だ。
私はすでに1年まるまる家での閉じこもり生活をしており、1日も早く外出、出張ができるようになりたい。しかし、現在は上記の通りでワクチン接種の予約はできないし、またこのような混乱の中では、事故に巻き込まれる恐れもあるので申し込む気にもならない。
できることなら1回の接種で済み、保存の問題もなさそうな新しいワクチン(常温または冷蔵のもの、米国では認可の見込み)を受けることが保証されるまで(言い換えれば、ワクチンの種類を自ら選択できるまで)申し込みは控えるつもりだ。それまでは家に籠り、2月10日にCDCが発表した「二重マスクをすれば92%超感染を防げる」というマスク戦略に頼る。この日のCDCの発表では、米国人でワクチン接種を望む比率は71%。即ち3割の国民はまだ躊躇している。
まだしばらく時間はかかりそうだが、ワクチンを選べるようになったらどこで接種を受けるか。できれば行きつけのクリニックで受けたい人が多いだろう。毎年恒例のインフルエンザのワクチンを受ける際には、電話で予約すれば数日のうちに日時を指定され、看護師が注射してくれて簡単に終わった。所要時間15分程度だ。
しかし、昨秋はこのインフルエンザワクチンの接種でさえ、電話してみると、(1)いつものクリニックではできない。集団接種会場に行ってもらう、(2)まだ私に合うワクチンが届いていない、(3)ワクチンが届いたら先方から電話する、とのことだったが、結局電話は来なかった。
メールで主治医に照会しても返事は来なかった。その結果、毎年、医師から接種を受けるよう督促されるインフルエンザのワクチンをしないまま終わった。ワクチンだけではない。定期健診など不急のものはすべて延期されている。
ドライブスルーはつらい
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source : 文藝春秋 2021年4月号