「ナンセンスが噴火する」ジム・キャリー

スターは楽し 第178回

芝山 幹郎 評論家・翻訳家
エンタメ 映画
ジム・キャリー
 
ジム・キャリー
©AF Archive/Universal/Mary Evans Picture Library/共同通信イメージズ

 1990年代の中盤、ジム・キャリーが噴火した。爆発というより噴火。一過性の破裂ではなく、溶岩の連続的な噴出。94年だけでも『エース・ベンチュラ』、『マスク』、『ジム・キャリーは Mr.ダマー』とヒット作が3本公開され、そのあとには、『ライアーライアー』(1997)がつづいた。止まらない感じがした。

 これはなんだ? と私は思った。驚くと同時に疑いも覚えた。顔や手足の奇天烈な動きに笑いつつ、危ないなと首をかしげた。ただ、不快ではなかった。反射的に好意さえ抱いたのだが、その淵源が読めない。言葉にすると強弁が混じりそうだ。この面白さはなんなのか。

 最初に笑ったのは『マスク』を見たときだ。小心で気弱な銀行員スタンリー(キャリー)が、水辺で古ぼけた仮面を拾う。そのマスクをかぶったとたん、彼は無敵のスーパーヒーローに変身する。

 設定の紹介は、これだけで十分だろう。40年代のズートスーツを思わせるカラシ色の衣裳。顔に貼りついた黄緑色のマスク(これは特殊メイク)。変貌したスタンリーは、奔放不羈、傍若無人の大暴れを見せる。『バットマン』(1989)の敵役ジョーカーと、『アラジン』(1992)の怪人ジーニーの合体だ。

 ヒロインを演じたのは、この映画でデビューを飾ったキャメロン・ディアスだった。ふたりともカートゥーンにぴったりの顔つきや体型をしているので、派手な化学反応も不自然ではない。突飛で、浮世離れしていて、愛嬌満点だ。

 とくにキャリーは、役になり切ったときの高揚感を、そっくり観客にぶつけてくる。小学生が喜びそうなサイトギャグの連発や悪ノリすれすれのオーバーアクションを見て、私ははらはらした。いつ滑るか、ではなく、こんなに滑りつづけていて大丈夫なのか、と案じてしまったのだ。この人は、ギャグの不発を恐れず、さっさと飽きられるのも覚悟の上で突っ走っているのか。そう思わせる蛮勇が、全身から発散されていた。

有料会員になると、この記事の続きをお読みいただけます。

記事もオンライン番組もすべて見放題
新規登録は「月あたり450円」から

  • 1カ月プラン

    新規登録は50%オフ

    初月は1,200

    600円 / 月(税込)

    ※2カ月目以降は通常価格1,200円(税込)で自動更新となります。

  • オススメ

    1年プラン

    新規登録は50%オフ

    900円 / 月

    450円 / 月(税込)

    初回特別価格5,400円 / 年(税込)

    ※1年分一括のお支払いとなります。2年目以降は通常価格10,800円(税込)で自動更新となります。

    特典付き
  • 雑誌セットプラン

    申込み月の発売号から
    12冊を宅配

    1,000円 / 月(税込)

    12,000円 / 年(税込)

    ※1年分一括のお支払いとなります
    雑誌配送に関する注意事項

    特典付き 雑誌『文藝春秋』の書影

有料会員になると…

日本を代表する各界の著名人がホンネを語る
創刊100年の雑誌「文藝春秋」の全記事、全オンライン番組が見放題!

  • 最新記事が発売前に読める
  • 毎月10本配信のオンライン番組が視聴可能
  • 編集長による記事解説ニュースレターを配信
  • 過去10年6,000本以上の記事アーカイブが読み放題
  • 電子版オリジナル記事が読める
有料会員についてもっと詳しく見る

source : 文藝春秋 2021年4月号

genre : エンタメ 映画