ジム・キャリー
©AF Archive/Universal/Mary Evans Picture Library/共同通信イメージズ
1990年代の中盤、ジム・キャリーが噴火した。爆発というより噴火。一過性の破裂ではなく、溶岩の連続的な噴出。94年だけでも『エース・ベンチュラ』、『マスク』、『ジム・キャリーは Mr.ダマー』とヒット作が3本公開され、そのあとには、『ライアーライアー』(1997)がつづいた。止まらない感じがした。
これはなんだ? と私は思った。驚くと同時に疑いも覚えた。顔や手足の奇天烈な動きに笑いつつ、危ないなと首をかしげた。ただ、不快ではなかった。反射的に好意さえ抱いたのだが、その淵源が読めない。言葉にすると強弁が混じりそうだ。この面白さはなんなのか。
最初に笑ったのは『マスク』を見たときだ。小心で気弱な銀行員スタンリー(キャリー)が、水辺で古ぼけた仮面を拾う。そのマスクをかぶったとたん、彼は無敵のスーパーヒーローに変身する。
設定の紹介は、これだけで十分だろう。40年代のズートスーツを思わせるカラシ色の衣裳。顔に貼りついた黄緑色のマスク(これは特殊メイク)。変貌したスタンリーは、奔放不羈、傍若無人の大暴れを見せる。『バットマン』(1989)の敵役ジョーカーと、『アラジン』(1992)の怪人ジーニーの合体だ。
ヒロインを演じたのは、この映画でデビューを飾ったキャメロン・ディアスだった。ふたりともカートゥーンにぴったりの顔つきや体型をしているので、派手な化学反応も不自然ではない。突飛で、浮世離れしていて、愛嬌満点だ。
とくにキャリーは、役になり切ったときの高揚感を、そっくり観客にぶつけてくる。小学生が喜びそうなサイトギャグの連発や悪ノリすれすれのオーバーアクションを見て、私ははらはらした。いつ滑るか、ではなく、こんなに滑りつづけていて大丈夫なのか、と案じてしまったのだ。この人は、ギャグの不発を恐れず、さっさと飽きられるのも覚悟の上で突っ走っているのか。そう思わせる蛮勇が、全身から発散されていた。
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source : 文藝春秋 2021年4月号