都内在住8歳の甥が、スマホ越しに『ズッコケ3人組』を音読してくれる。
「すごい早いから、聞いてて」
まるで見習い落語家の「じゅげむじゅげむ」。早口すぎて内容も面白さもさっぱりだ。こんな朗読じゃ先生にも褒められないだろう。あくびを噛み殺しつつしみじみ思う。正月も大型連休も親族で集まれなかったけど、無双のネット回線がある。電話代の無駄だからもうやめなさい、と言わなくていい時代。豊かなものだ。
「だけどそんなスピードで読んだんじゃすぐ読む本がなくなるでしょ」
「そうなのよ、図書館もやってないしさ」
甥の母親が隣からぼやいた。
そういえば、都内のレンタルビデオ店も休みだった。古い映画の在庫を渋谷のツタヤに電話で尋ねたら、「緊急事態宣言中は休業します」と。私が探していたのは昭和前期の喜劇の名手・斎藤寅次郎監督が終戦直後の焼け跡で撮った作品で、中古ソフトも入手困難なVHS。そんな風に人から忘れ去られた逸品に出会える店や施設を包括しているところこそが、東京の「都会らしさ」だったのだが。それにしても、誰もがこれだけ長く家にいろと言われながら、本や映画を借りに行く場所も閉ざされるとは。
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source : 文藝春秋 2021年7月号