6月15日はニューヨーク州にとって、特別な日になった。州民の70%が少なくとも1回のワクチン接種をすることによって、さまざまな制限が撤廃されたのです。パンデミックと宣せられてから最初の3ヶ月で20万3000人の市民が感染し、当初の死亡率は9.2%という恐ろしさでした(CDCのデータより)。
去年の日記を辿ってみると、わたしが最後に誰かと一緒にご飯を食べたのが3月8日。それ以降は、ずうっと1人。自分のご飯を自分のために作り自分だけで食べる毎日。外に出るのは食料品を買いに行くのと郵便局に行くときだけ。あ、酒屋に行くっていうのもありましたがね。スーパーは朝、開店からの1時間を65歳以上のみ買い物できるようにしてくれたので、これは助かりました。若者たちが、ソウシャルディスタンシングを守りつつ長蛇の列を作って自分たちの入店時刻を待つのを尻目に、年寄りたちはゆっくりとお買い物ができたのです。
ニューヨーク市のロックダウンは徹底していました。外食はテイクアウトとデリバリーのみ。日にちが経つうちに店を畳むところも続出しました。自分の気に入りのレストランに生き残ってもらうためテイクアウトに通い、チップを弾み、がんばってねと声をかけ泣きそうになり、食べきれない量を数回に分けて、うちで猫と語り合いながら食べたものです。
せまい歩道を歩く時も、向こうから人が来るのが見えたら、すれ違いを防ぐため、どちらかがその場で待機。知り合いの姿を見ても、なるべく会話をマスク越しで短く済ます。地下鉄はニューヨーク史上、こんなに清潔だったことはなかったであろうと思われるほど、床も座席もクリーンでした。なんせゴミが落ちてないんですよ、って日本の電車に乗り慣れた皆さんには想像できないですよね。がら空きなので、なるべく安全を確保するため、他の乗客か車掌がいる車両を選ぶ。それもちょっと見、変な人がいたら、即、違う車両に移動する。
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source : 文藝春秋 2021年8月号