京都の北東、比叡山に最澄が延暦寺を開創して以降、法然、栄西、道元、親鸞、日蓮などあまたの学僧が山道を踏みしめた。後年、山道が道路に移り変わったが、一歩外れるといまも森閑としている。中腹部、比叡平(大津市)にニュータウンが開かれて半世紀になるが、閑静な住宅街が広がっている。
5月、当地にユニークな古書店がオープンした。梁山泊(りょうざんはく)。店主を島元健作という。
建物面積は25坪で総吹き抜け。元居合の道場だったとか。両側壁は、天井まで棚が伸び、床中央は3列6面の書架がしつらえてある。総冊数2万数千点。壮観である。
梁山泊は社会・人文系の古書店で、これまで岡山、大阪、京都などで店を営んできた。京都・下京区の店舗を引き払い、自宅のあるこの地に移ってきたのだが、下京店にあった古書は三十数万点。そのなかで、主に絶版「伝記」(自伝、回想録、日記、評伝、追悼録)を中心に移転させた。
古書の大量処分を強いられたが、「モラル・ハザード」を覚えたとか。旧店、いまも整理途上であるが、処分本として断を下しつつ迷いが生じ、夢に見るという。書物を商い物としてのみ扱ってこなかったからでもあろう。
入口近くに見えるのは、マックス・ウエーバー、ジョージ・オーウェル、ウィトゲンシュタインなどなど。奥に進むと、吉田松陰、西郷隆盛、大久保利通、乃木希典、中江兆民といった維新・明治の人々。さらに原敬、北一輝、吉野作造、柳田國男、頭山満、大川周明、竹内好、荒畑寒村、鶴見俊輔、福田恆存、石原吉郎ら大正・昭和へ。上段には大部の全集や日記類が並ぶ。
あいうえお順、さらにテーマ別の一角もあって、水戸学、自由民権、大正デモクラシー、満州事変、二・二六事件、五・一五事件、ロシア革命、スペイン内戦、パリ、ナチス、ベトナム戦争、満蒙開拓、学徒動員、空襲、原爆、農地改革、日本共産党などなど――。
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source : 文藝春秋 2021年8月号