世界は、米中間の関税報復合戦と戦略技術をめぐる覇権闘争を軸とする貿易戦争と、AI、ビッグデータ、ブロックチェーン、ロボットなどの第四次産業革命による大攪乱期に突入しつつある。
アジア太平洋の国々の成長は中国と米国との貿易に依存しているし、多くの国が安全保障を米国に頼っている。どの国も、米中貿易戦争の横波から逃れられない。各々の身を守るには、アジア太平洋域内の経済連携協定(EPA)を前に進め、市場アクセスを確保し、ルールと法の支配による自由貿易体制を維持していく以外ない。
TPP(環太平洋経済連携協定)がその最大の防波堤となるはずだったが、トランプ米政権がここから脱落してしまった。しかし、TPP12が不発に終わった後、一気にTPP11(正式名称、CPTPP)交渉へとギアを入れ替え、その交渉をまとめ上げたのは日本とベトナムとメキシコだった。今後は、TPP11に加盟の意向を示唆しているタイ、フィリピン、インドネシア、韓国なども含め、この自由貿易の防波堤を拡大していくべきだろう。
できればその余勢をかってRCEP(東アジア地域包括的経済連携)交渉も仕上げたいところだが、中国からの安価な製品輸入を怖れるインドが市場開放に後ろ向きなこともあって交渉が進まない。中国は最近、ASEANプラス3(アセアン10カ国に日中韓3カ国)EPA構想を口にし始めた。そこでは、インドだけでなくオーストラリアも排除できる。中国は今後、中国を頂点とする垂直統合型の中華経済圏の形成を目指すだろう。
日本はここは慎重に臨むべきである。東アジアと太平洋を融合させる「アジア太平洋フュージョン」こそが日本とアセアンにとって望ましい地域ビジョンである。当面、米国の参画が叶わないことから生じる真空を中国の勢力圏で覆わせてはならない。中国も含む多様にして多元的なアジア太平洋を維持することが、つまりは「開かれた地域主義」が、この地域の平和と安定にとって必要なのである。
それでは、第四次産業革命が引き起こす経済、社会、そして政治における地殻変動にどう対応するか。
第四次産業革命は既存産業を空洞化させ、機械が人間を駆逐し、経済弱者を大量に生み出し、専制体制による社会監視と政治コントロールをもたらす危険がある。
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source : 文藝春秋 2018年10月号