私事だが、30年前、『通貨烈烈』(朝日新聞社、1988年)と題する本を刊行した。
1980年代のレーガン政権時代、家電、自動車、工作機械、精密機械、建設機械、通信機械、半導体、スパコン、タバコ、コメとありとあらゆる分野で日米間の貿易摩擦が起こり、米国では日本製品に対する輸入規制を求める声が澎湃(ほうはい)と沸き起こっていた。
貿易収支の不均衡をこのまま放置しては米国内で保護主義的逆流が噴出し、自由貿易体制が維持できなくなる。ベーカー米財務長官は、「米国の一国主義が戦前の大不況を引き起こした」との歴史観を持っていた。その愚を繰り返してはならない。彼がイニシアティブを取ったのが、米、日、(西)独、英、仏による為替調整を軸とする1985年のプラザ合意である。その結果、ドルの対円・対ドイツマルク相場は50%近く下落した。
『通貨烈烈』は、この間の各国の通貨外交の舞台裏を描いた。
その中国語版の『管理美元(米ドルを管理する) プラザ合意と人民元の命運』がこのほど中国の中信出版集団から出版された。
中国語版の謳い文句は「マクロ経済政策の舞台裏 大国の駆け引き 人民元の未来を示す」である。
時ならぬ出版の背景には、現在の米中貿易摩擦がある。トランプ政権は、中国の知財侵害による損害を主張、通商法301条に基づき、中国製品への高関税を課する制裁を発動した。これに対して、中国は報復措置で対抗。すると、米国はこれを世界貿易機関(WTO)協定違反として、WTOに提訴する手続きを始めた。
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source : 文藝春秋 2018年09月号