伊藤さん
太平洋戦争末期、フィリピンの洞窟で新聞を作り続け、戦火に散った一人の従軍記者がいた。毎日新聞社の前身である東京日日新聞の記者・伊藤清六だ。本書はその人生を、親族であり同業者でもある伊藤絵理子さんが追ったものとなる。
伊藤さんは2005年、毎日新聞社に入社。入社直前に父親から、曾祖父の弟が同社の社員だったと聞かされた。
「経済部などを経て、2011年、資料を管理する情報調査部に配属になりました。部の一角に『本社員顔写真』のキャビネットがあり、父の話をふと思い出したんです。清六さんの写真を見つけた時、目鼻立ちに懐かしさを覚えました」
業務外で時間を見つけては、過去の資料を漁る日々が続いた。故郷・岩手では本人が残した日記や手紙を発見。農村と都市部の格差を綴った文面から、社会問題への熱い思いが伝わってきた。だが取材の過程で、清六が30歳の時、日中戦争に特派員として派遣されていたと知った。南京事件にも居合わせたが、当時の記事は捕虜殺害に触れていない。
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source : 文藝春秋 2021年10月号