4人の候補者は“操り人形”に過ぎなかった。ゴッドファーザーの座を賭けた暗闘の内幕
「安倍vs.菅」という対立構図
祭りが終わった。行革担当相の河野太郎、前党政調会長の岸田文雄、前総務相の高市早苗、党幹事長代行の野田聖子の4候補が争った自民党総裁選は、岸田と河野の決選投票を経て、岸田が第27代総裁に選出された。興行は絶大な効果を発揮し、菅義偉政権で低迷していた党支持率は回復した。11月に衆院選を控えていることを考えれば、最高の仕上がりだろう。
ただ、祭りの本当の主役は4候補ではなかった。4候補を操る重鎮たちが熾烈な権力闘争を繰り広げ、岸田政権発足後もますますその不協和音は激しさを増しているのだ。
時計の針を1年前に戻そう。首相の安倍晋三が辞任を表明した際、抜群の反射神経を見せたのは幹事長の二階俊博だった。総裁への野心を秘めてきた官房長官の菅を担ぎ出し、瞬く間に流れを作った。安倍が影響力を持つ最大派閥の細田派と、副総理兼財務相の麻生太郎が率いる第二派閥の麻生派も、二階が作った流れに追従せざるを得なかった。功名を立てた二階はまんまと幹事長続投を果たし、党の金庫を預かった。
このとき水面下に隠れていた「安倍vs.菅」という対立構図が、まさに今回の主役となった。つまり、安倍と菅のどちらが次の政権の後ろ盾として力を維持することができるかのガチンコ対決であり、4候補は両陣営の思惑によって踊らされていた操り人形に過ぎない。
安倍はこの1年、失地回復に腐心してきた。菅続投なら、狙いはナンバー2の幹事長ポストである。菅内閣の支持率が低落する中、安倍は盟友の麻生と党税調会長の甘利明の「3A」で半導体戦略推進議連などを次々立ち上げ、菅・二階包囲網を敷いた。対する二階も黙ってはいない。2019年参院選広島選挙区の大規模買収事件に関連し、自民党本部から元参院議員の河井案里側に提供された1億5000万円を巡り、二階側が当時首相だった安倍の関与をほのめかしたこともあった。安倍は「桜を見る会」前夜祭という急所も抱えていた。安倍が「菅再選支持」とのメッセージを繰り返し発していたのは、再捜査を警戒して菅に気を遣っていたからにすぎない。
そして今回、安倍と麻生が蛇蝎のごとく嫌う元地方創生担当相の石破茂を、菅がバックアップする河野陣営があえて取り込んだことを見ても、この対立構図は明らかである。
いずれも個別の動きのようでいて、目を凝らせば、両陣営間の権力闘争に起因することが見えてくる
安倍晋三元総理
解散権と人事権を封じた安倍
その対立構図の覆いが取り払われたのは、8月31日に毎日新聞がウェブで「菅総理が総裁選前の9月中旬に解散する意向」と打ったことがきっかけだった。
ここを勝負の時とみた安倍は、麻生と示し合わせて一気に攻勢に出る。「総裁選をやらずに解散などしたら、自民党が終わってしまう」。安倍はまず電話で菅にそう強調し、圧力をかけた。次に安倍は、官房副長官時代から菅との関係が良好な文科相の萩生田光一が幹事長などの要職に起用される可能性が高いとみて萩生田に電話し、「将来がある身なのだから、話が来ても受けるな」と予防線を張った。安倍は首相の大権であるはずの解散権ばかりでなく、その人事権までも封じたのだ。
「秋田出身のたたき上げ」の最後は脆かった。政権の刷新をアピールするために二階の交代まで決断した。だが、「幹事長辞任後、副総裁ポストを要求した二階さんに対して、菅さんが提案したのは国土強靱化担当の最高顧問。これで二階さんが『恩知らず』と、菅政権を見切ることになった」(二階周辺)。
菅は「やはり最後は派閥を持っていなかったことが致命的だった」と周囲に漏らす。萩生田も「総理の周りに総理を支える体制がないよね。無派閥の菅内閣の酷い状況を見ると、逆に改めて『派閥の効用』というものがあるんだ、ということを感じる」と近しい人に指摘している。
無派閥の菅の周囲に、側近と呼べる議員は、いるにはいる。ただ、各人が菅と個人的に繋がっているにすぎず、政権が危機に瀕した際、組織的に守ろうとする行動は起きなかった。内閣支持率が1桁台に落ち国民から見放された森喜朗内閣では、後に首相になる小泉純一郎を筆頭に清和会(現細田派)がそれでも全力で支え「加藤の乱」を鎮圧したのとは対照的だった。
菅の最側近ともいえる官房副長官の坂井学のちぐはぐな対応がその象徴だ。派閥に所属してこなかったため、坂井は自らの役割を全く分かっていない。振り付けられる人もいない。副長官の役割として最も重要な首相と党をつなぐパイプ役として機能せず、常軌を逸した言動で、菅を守るどころか与党側の首相官邸への批判を強めてしまった。
菅義偉前総理
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source : 文藝春秋 2021年11月号