著名人が母親との思い出を回顧します。今回の語り手は、為末大さん(為末大学学長・元陸上選手)です。
「これをしなさい」「あれをしなさい」と細かく指示するタイプではありませんでした。教育方針がなかったんだと思います。一つだけ言うとすれば、「なにか運動はしてほしい」くらい。
母は僕のすることを、いつも黙って見守ってくれていました。僕の人生の岐路において、アドバイスすることもなければ、応援することもなかった。高校・大学の進路は相談しませんでしたし、会社を辞めるのも事後報告でした。
そのように自由に育てられましたが、1度注意されたことがあります。
小学生の時のこと。当時は陸上をやっていましたが、地元の野球クラブにスカウトされ、1度だけ野球の試合に出たことがありました。足が速かったので、盗塁を任されたんです。結果的にいろいろと使い勝手がよかったようで、クラブの監督が喜んでしまった。「陸上の練習があるなら、今度から試合だけでもいいから出てくれ。レギュラー扱いにする」と頼まれてしまいました。
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source : 文藝春秋 2021年11月号