日本を動かすエリートたちの街、東京・霞が関。日々、官公庁を取材する記者たちが官僚の人事情報をどこよりも早くお届けする。
★警察出身者への期待
官邸の事務方トップである官房副長官が杉田和博氏(昭和41年、警察庁入庁)から栗生俊一氏(56年)に交代して1カ月以上が過ぎた。栗生氏は、警察庁で各省庁との折衝を担う官房長を務めた後、長官に上りつめた。その経歴は田中角栄内閣の副長官でカミソリの異名をとった後藤田正晴氏(13年、内務省)を彷彿とさせるが、内閣発足直後に解散総選挙となり、官邸での調整力を試される局面には至っていない。
事務方の副長官は旧内務省の警察庁、旧厚生省、旧労働省、旧自治省から選ばれるのが通例で、同じ省庁出身者が2代続くのは異例のこと。それでも栗生氏が副長官に就いたのは、官邸で警察出身者が睨みをきかせることへの期待が自民党内に強まっている事情があった。
副長官に加え現在は瀧澤裕昭氏(57年、警察庁)が務める内閣情報官、さらに首相・官房長官秘書官とあわせると、警察官僚の存在感は往時の旧大蔵省並だ。もっとも、警察一強は自民党が圧倒的な議席をもった「自民一強」と歩調を合わせていた。今後もこの傾向は続くのか、栗生氏の手腕が見どころだ。
★秘書官人事の真相
岸田首相の筆頭秘書官に嶋田隆元経産次官(昭和57年、旧通産省)が起用された背景について、様々な憶測が乱れ飛んだ。
真相は、岸田氏自身が開成高校の2年後輩である嶋田氏を直接、口説いたのである。総裁選の2日前、勝利を確信した岸田氏は、嶋田氏との電話で長時間にわたり、目指す政権像を詳しく説明し、秘書官就任を要請。次官経験者の首相政務秘書官就任は過去に例がないため、躊躇した嶋田氏だが、最終的に岸田氏の熱意に負けたという。
実は、この2人を繋いだのは、開成OBの故・香川俊介元財務事務次官(54年、旧大蔵省)である。
平成26年4月の消費税率引き上げにおいて香川氏は大臣官房長、主計局長として奔走したが、同時期に香川氏が外務大臣だった岸田氏に嶋田氏を引き合わせた。その後、両氏は年に数回会食をする関係になったのだ。
今回、経産省からはOBの嶋田氏だけでなく、商務情報産業局長に昇格したばかりの荒井勝喜氏(平成3年、旧通産省)が秘書官に就いた。嶋田氏や後任の安藤久佳前次官(昭和58年)は官邸とのパイプ役として重用され、新型コロナ対策の資材調達などに活躍した。局長から秘書官になるのは異例だが、「岸田政権が軌道に乗るまで、万全の態勢で臨みたい」と考える嶋田氏に、多田明弘事務次官(61年)が応えた形だ。
財務省は平成元年入省のエース、宇波弘貴氏を送り込んだ。宇波氏は7月の人事で同期の小野平八郎氏に総括審議官を譲り主計局次長に留任。「総選挙を控え、政権交代もあり得ると読んだ財務省首脳部が、秘書官候補として宇波氏を温存した」(有力課長)との見方がもっぱらだった。
今井尚哉氏(昭和57年、旧通産省)が首相秘書官や補佐官として権勢を振るった頃は「成長重視の経産省政権」とも呼ばれた。しかし自民党の財政再建派の故・与謝野馨氏に仕えた嶋田氏は、財政規律派として知られる。
財務省は、宇波氏に加え、官房副長官補の補佐役だった中山光輝氏(平成4年、旧大蔵省)を主計局総務課長から秘書官に送り出した。元国税庁長官の藤井健志副長官補(昭和60年)も開成出身であり、嶋田氏とは気心が知れている。岸田官邸は「成長と財政規律のバランスが取れた政策運営ができる布陣」(財務省幹部)になったと言える。
★俊英たちの試金石
本誌前号に掲載された、いわゆる「矢野論文」によって財務省にも衝撃が走った。「直言居士」矢野康治次官(昭和60年、旧大蔵省)による真っ向からのバラマキ批判に省内は賛否両論といった様相だ。若手はおおむね好意的に受けとめるが、中堅以上には与野党の一部で高まった反財務省の感情に「戦いにくくなっただけ」と複雑な表情を浮かべる向きも。「言いっ放しに終わってはいけない。今秋の経済対策でメリハリを付けられるかどうか」(省幹部)との指摘は的を射たものだろう。
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