日本を動かすエリートたちの街、東京・霞が関。日々、官公庁を取材する記者たちが官僚の人事情報をどこよりも早くお届けする。
★財務省本流の「抵抗」
総選挙を乗り切り、意気上がる自民党で、財政政策をめぐる動きが活発になってきた。
筋金入りの財政再建論者である矢野康治財務事務次官(昭和60年、旧大蔵省入省)のバラマキ批判に、最も鋭く反応したのが安倍晋三元首相や高市早苗政調会長を中心とする面々だ。党内に「財政政策検討本部」を設置し、財務省との対決姿勢を打ち出した。
身動きが取れない矢野氏に代わって対抗策を練ったのが、茶谷栄治主計局長(61年)。あっという間に官邸に根回しし、総裁直轄の「財政健全化推進本部」を立ち上げた。
「健全化」の本部長は現茂木派の領袖だった額賀福志郎元財務相。財政政策検討本部長の西田昌司参院議員と比べ、重量級だ。額賀氏が財務相だった時、秘書官として支えたのが茶谷氏。財務省本流のエースとして歩み、温厚篤実で人望が厚い茶谷氏は、政財官に人脈を築いてきた。額賀氏は最も親しい政治家の一人だ。
当然、茶谷氏は岸田文雄首相の了解を得ており、首相秘書官の嶋田隆氏(57年、旧通産省)や宇波弘貴氏(平成元年、旧大蔵省)との連係プレーも垣間見える。
かつて自民党で財政再建を強く訴えたのは与謝野馨元財相であり嶋田氏はその懐刀だった。茶谷氏は、その与謝野・嶋田コンビを後押しした元財務事務次官の香川俊介氏(昭和54年)、岡本薫明氏(58年)の流れを受け継ぐ。
茶谷氏の手足になるのは、予算と税制の両方に通じている坂本基主計局次長(平成3年)や吉野維一郎秘書課長(5年)。坂本氏は菅義偉前首相の秘書官だった寺岡光博氏と同期で、次官レースを並走する。吉野氏は、若手の頃から将来を期待されてきた逸材。一本気で突っ走りやすい矢野次官にも物申す一言居士だ。
一方、高市政調会長ら積極財政派の中核メンバーは結束力が強い。来年夏の参院選を控え、二階俊博元幹事長も建設、運輸、観光、農地改良などの業界団体から予算陳情を一身に集めるなど、なんとも老獪な動きを見せる。
嶋田・茶谷氏の財政再建に対する覚悟が問われている。
矢野氏
★岸田外交の後ろ盾
岸田政権の外交は、外務省が官邸にあげた案を秋葉剛男国家安全保障局長(昭和57年、外務省)が差配する形で進められている。
安倍内閣で4年8カ月にわたり外務大臣を務めていただけに、岸田首相は外務省のおかれた立場、そして官邸外交で独走された際の悲哀を十分に理解している。
また岸田首相は、外相時代の秘書官だった中込正志氏(平成元年)を首相秘書官、内閣広報官には四方敬之前経済局長(昭和61年)を登用。これに外務省は意を強くしている。
さらに大きいのが嶋田首相秘書官の存在だ。嶋田氏と秋葉氏は入省同期で昔から気脈を通じる。安倍政権では今井尚哉内閣官房参与(57年、旧通産省)がロシア、中国などの外交案件に口出しし、外務省を政治力で抑えつけていた。だが、当時から嶋田氏は秋葉氏と外務省の立場を最大限に尊重しており、2人の間に摩擦は生じていない。
さらに秋葉氏は、官僚の総元締めとなる栗生俊一官房副長官(56年、警察庁)とも良好な関係にある。秋葉・嶋田・栗生のトライアングルが、外務省には力強い後ろ盾となっている。
外務省を取り巻く環境は、ここ20年でみても最良の状況にあるといえる。逆に言えば、外務省は言い訳のできない立場に置かれてしまった。
岸田首相
★学歴重視の布陣
岸田政権の目玉政策の一つである経済安全保障。11月19日、内閣官房に経済安全保障法制準備室が設置された。この準備室のメンバーは経済産業、財務、外務、防衛省など関係省庁の職員約50人で構成される。
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source : 文藝春秋 2022年1月号