『九十八歳。戦いやまず日は暮れず』は佐藤先生の切れ味の鋭い血気盛んなエッセイ集。『九十歳。何がめでたい』と変わらない威勢の良さだが、戦争への追憶や人間の一生への寂寥感もにじむ。作中に断筆宣言もあり、その理由は当然納得できる内容だったけど、愛読者としてはただたださびしい。読んでいると元気づけられるだけでなく、100年が間近に迫る生のずっしりした荘厳さも感じる作品。
『あなたにオススメの』は2編の短編が収録されているが、どちらもザクザク直接脳に突き刺さるような描写が刺激的だ。奇抜な物語運びで、世の中の深刻な問題にアクセスしているなと感じた。ネットが次々オススメしてくるコンテンツ漬けになった、近未来を生きるオンライン中毒の人々が登場するが、遠い未来ではなく現代人も既にこの感覚に近づいている。現在の自分も、何らかの理由でお気に入りのウェブサイトに飛べないだけでイライラするので、本書の物語設定の遠くて近い視点に不気味なリアルさを感じながら読んだ。
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source : 文藝春秋 2021年12月号