〈国ってなんのためにあるのか?〉
本書が冒頭から投げかけるこの問いを、漠然と心の中に抱いていた人も多いかもしれない。大地震や豪雨災害、そしてパンデミック。近年、私たちは生活を脅かす困難に何度も直面してきた。こうした想定外の事態が起きて行政が麻痺すると、国家は頼りなく感じてしまう。
本書は、日本民俗学の祖・柳田国男から昨年『ブルシット・ジョブ——クソどうでもいい仕事の理論』が話題となった人類学者デヴィッド・グレーバーまで、幅広い知見を丁寧に読み解きながら、国家に頼らない社会のありようを探っていく。
著者の松村圭一郎氏は岡山大学で准教授を務める。専門は人類学。京都大学在学中、フィールドワーク調査のため訪れたエチオピアの村で「国家」への疑問が芽生えたという。
「そこでは、国は村の人々の生活を支えてくれるものではなかった。いつも上の方から突然やってきて、何かを奪っていくだけだったのです」
植民地化や内戦で支配者が変わるたび、農民たちは土地を接収され、税を取られる。社会保障や健康保険サービスもない。それでも彼らは土地を耕し、家畜を育て、近隣と助け合って生きてきた。
「それにひきかえ、私は自分が生きていく生活の知恵を何一つ持っていなかった。国家というシステムに依存して生きていたのだと気付き愕然としました」
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source : 文藝春秋 2021年12月号