史上初の米朝会談が行われたが、肝心のところが、いまひとつ見えてこない。
たとえば、非核化の問題。北朝鮮は大ざっぱな方向づけとしての非核化には合意したが、アメリカが望んでいたような「完全かつ検証可能で不可逆な形での非核化」(CVID)に合意したわけではない。すべてが今後の折衝に持ち越されている。
あの首脳会談、いってみれば、にこやかに2人で握手してみせたあの冒頭の場面にすべてがつきるのかもしれない。アメリカと北朝鮮とこれまで戦争状態にあった両国首脳がにこやかに握手したというだけで、ニュース価値は十分である。机の下で2人が実は足を蹴飛ばし合っていたというなら別だが、あの2人、本当に握手し、仲良さそうに庭を散歩していた。
トランプは会談前に「最初の1分で会談が成功か失敗かわかる」といっていた。その通りだ。話をぶちこわすつもりなら両者は全くちがう出会い方をしていたはず。
こういう出会い方をした2人は、これから衆人環視の中で殴り合いをするわけにもいかない。両者これからしばらくの間、仲良さそうなふりをしつづけるだろう。それだけでもこの首脳会談は成功したというべきだ。ことばをかえていえば、北朝鮮はこれで国家として生きていく体制の存続保証を得たのだ。北朝鮮は独自な体制(独自な社会主義)を持つ国家としてこれまで通り存続することを許されたということだ。
米朝会談がはじまる寸前まで、アメリカは金正恩をリトル・ロケットマンと呼んでバカにし、核放棄と非核化に合意しなければ戦争に訴え、北朝鮮を国家壊滅の危機にさらすことがいつでもできるぞという態度を露わにしていた。
そして実際米朝会談が行われる一寸前まで、アメリカは北朝鮮の周辺海域に空母を遊弋させるなどして、本気でいつでも国家壊滅させようと思えばできるんだぞと脅しの気持を示していた。朝鮮戦争はあくまで休戦しているだけで、いつでも再開しようと思えばできるんだぞということだ。
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source : 文藝春秋 2018年08月号