著名人が父親との思い出を回顧します。今回の語り手は、蛭子能収さん(漫画家)です。
私の故郷は長崎県長崎市にある漁業の町。父はその町で遠洋漁業の漁師として働いていました。底引き網漁をする「阿波船団」という漁師の集団の団長を務めていたらしいです。人の良い顔をしていましたよ。
1カ月は船に乗っていて、家に帰ってくるのはほんのたまにだけ。姉は集団就職で家を出ており、母と兄と3人で暮らしているようなものでした。でも、父は家族との時間は大事にしていました。漁が終わったら漁師仲間との飲み会には一切出ず、家にまっすぐ帰ってきていた。母とも仲が良く、喧嘩をするのは一度も見たことがありませんでした。
父が漁から帰ってくると、獲ってきた魚が食卓に出るようになる。焼き魚とかお刺身とか……毎日食べ過ぎて魚嫌いになってしまいました。小学生の頃から「魚だけはもう2度と食いたくない」と。漁師の息子なのにね(笑)。見かねた母はよくカレーライスを作ってくれて、それが私の好物でした。今でも魚は、自分からは進んで食べないです。
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source : 文藝春秋 2022年2月号