著名人が母親との思い出を回顧します。今回の語り手は、吉田都さん(新国立劇場舞踊芸術監督)です。
いつもポジティブな母。弱音を吐くところを見たことがありません。どんな失敗談も、母の手にかかれば、なぜか全て笑い話になります。
そんな母にも辛い時期がありました。私が3歳の時に糖尿病を発症。血糖値を下げるために毎日、自分でインスリン注射を打つようになったのです。病気の進行とともに、母の体は痩せ細り、入院生活を余儀なくされました。「娘が20歳になるのを見届けられないかもしれない」と覚悟した時もあったそうです。一時期は本当に危なかったのですが、食事療法をきちんと頑張ったおかげで、病状は安定していきました。
「神様が生かしてくれている」
いつしか母は、生きていることに感謝しながら生活するようになりました。当たり前のように思えることにも、感謝の気持ちを持つ。その考え方は、私にも根付いています。
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source : 文藝春秋 2022年3月号