祖国ロシアを飛び出したデジタル・レジスタンス パーヴェル・ドゥーロフ(テレグラム創業者CEO)

世界経済の革命児 第68回

大西 康之 ジャーナリスト
ニュース 経済 メディア ロシア 企業
ジャーナリストの大西康之さんが、世界で活躍する“破格の経営者たち”を描く人物評伝シリーズ。今月紹介するのは、パーヴェル・ドゥーロフ (Pavel Durov、テレグラム創業者CEO)です。
世界経済の革命児パーヴェル・ドゥーロフ_SPUTNIK_時事通信フォト
 
パーヴェル・ドゥーロフ
©SPUTNIK/時事通信フォト

祖国ロシアを飛び出したデジタル・レジスタンス

 ロシアの侵略が続くウクライナから発せられる写真や動画を注意深く見ると、時々、画像の端に現れる文字に気づく。「Telegram(テレグラム)」。2013年にロシアで生まれ、世界に約5億5000万人のユーザーを持つSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)だ。

 テレグラムは国家やハッカーの介入を許さない鉄壁のセキュリティで知られ、ウクライナ市民が発する生の情報が検閲抜きで世界に発信される。ロシアのプーチン大統領が最も忌々しく思っているはずの会社だが、現在、本社はUAEのドバイにあり、「同じ場所に30分以上は止まらない」と、まことしやかに言われる創業者CEOの居場所は誰も特定できない。

 彼の名前はパーヴェル・ドゥーロフ。黒いタートルネックを着た写真は、映画『マトリックス』に主演したキアヌ・リーブスを思わせる。インスタグラムに鍛え上げた上半身裸の写真をアップしたのは、母国の権力者へのあてこすりとも言われている。

 ドゥーロフは1984年10月、サンクトペテルブルク大学で文献学を教える学者の次男として生まれた。父親がトリノの大学で働いていたため、幼少期をイタリアで過ごした。故郷に戻りサンクトペテルブルク大学で文献学を学んだ。

 高校、大学時代にプログラミングを身につけたドゥーロフは文献を探しやすくするためにオンライン図書館を立ち上げた。これが学校中の評判になり、気を良くしたドゥーロフは学生同士がネットで簡単に連絡を取り合えるようにする「学生会議」と呼ぶアプリも開発した。

 その頃、米国に移住していた同級生が「学生会議」の存在を知り、当時、米国で大流行の兆しを見せていたフェイスブックのロシア版を立ち上げないかとドゥーロフに持ちかけた。同級生の父親が資金を提供し、ドゥーロフの兄で数学者のニコライも加わって2006年にSNS「フコンタクテ(ロシア語で『連絡中』の意味、略称VK)」を創設した。

 VKは瞬く間にロシア市場を席巻し、会社の価値は30億ドルに達した。しかし絵に描いたようなサクセスストーリーは2011年12月を境に暗転する。ロシア連邦保安庁(FSB、旧KGB)がVKに対し、アレクセイ・ナバリヌイなどプーチンと対立する活動家のデータを引き渡すように求めた。ドゥーロフはパーカーを着た犬が舌を出した写真を投稿してこれを拒否。プーチン政権からの圧力は強まり、やがてVKは親プーチンのネット企業に買収されてしまう。

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source : 文藝春秋 2022年6月号

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