ジャーナリストの大西康之さんが、世界で活躍する“破格の経営者たち”を描く人物評伝シリーズ。今月紹介するのは、ミハイロ・フェドロフ(Mykhailo Albertovych Fedorov、ウクライナ副首相兼デジタル変革担当大臣)です。
ミハイロ・フェドロフ
ⒸYevhen Kotenko/Ukrinform via ZUMA Press Wire/共同通信イメージズ
ロシアがウクライナへの侵攻を本格化した2月26日、あるツイッターでのやり取りが世界の注目を集めた。
「イーロン。あなたが火星への入植に挑戦している間に、ロシアはウクライナを支配しようとしている。あなたのロケットは無事、宇宙から帰還したが、ロシアのロケットはウクライナ市民を攻撃している。ウクライナに(イーロン・マスクのスペースXが運営する衛星ネットサービス)スターリンクを提供してくれ」
10時間後、イーロン・マスクが返信した。
「スターリンクのサービスをウクライナに提供した。追加で端末を送る」
イーロン・マスクにメッセージを送ったのはウクライナ副首相でデジタル変革担当大臣のミハイロ・フェドロフ。2019年にウクライナ史上最年少の28歳で大臣になった人物だが、元は政治家ではなく起業家である。
ロシア軍は侵攻直後にウクライナのテレビ塔を砲撃するなど、まずウクライナ国内の情報網を遮断しようとした。市民はSNSで世界に惨状を発信していたが、それも繋がりにくくなっていた。そこでフェドロフが助けを求めたのがイーロン・マスクの衛星ネットサービス。低軌道に複数の人工衛星を浮かべ、地上の受信機とやり取りする。プーチン大統領も流石に米国の人工衛星を撃ち落とすわけにはいかないだろうから、ウクライナの軍と市民の最低限の情報網は確保されたことになる。
NATOでも国連でもなく「イーロン・マスクに頼む」という機転をきかせたフェドロフとはどんな人物か。1991年1月にウクライナで生まれ、今回の侵攻でロシア軍が攻撃した原子力発電所があるザポリージャの大学で社会学、管理学、高等政治学を学んだ。ザポリージャでは「学生市長」も務めており、社会運動に積極的に参加していた。ジョン・F・ケネディが設立した非軍事の海外援助を行う政府組織USAID(米国国際開発庁)が主宰する「ザポリージャITキャパシティビルディングイニシアチブ」にも参加している。
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source : 文藝春秋 2022年5月号