ジャーナリストの大西康之さんが、世界で活躍する“破格の経営者たち”を描く人物評伝シリーズ。今月紹介するのは、ダグ・マクミロン(Carl Douglas McMillon、ウォルマート社長兼CEO)です。
ダグ・マクミロン ©ロイター=共同
EC(インターネット・ショッピング)大手のアマゾン・ドット・コムは2017年、米英で450ヶ所の実店舗を展開する食品スーパー、ホールフーズ・マーケットを137億ドル(約1兆5200億円)で買収した。
「Just Walk Out(レジで支払いをせず、商品を持って店の外に出るだけ)」を合言葉に、「Amazon GO」「Amazon Fresh」などの無人決済店舗を展開し、リアルへの進出を目論むアマゾンは既存の小売業を殲滅しようとしている。
「そうはさせじ」とリアルからネットに進出し、アマゾンの猛攻を凌いでいるのがウォルマート。米国を中心に1万1000のリアル店舗を展開する世界最大の小売り会社を、その辣腕でネット時代に適応させたのが、2014年に就任した5代目社長兼CEO(最高経営責任者)のダグ・マクミロンだ。
ウォルマートはこのほど、2022年1月期に物流施設の自動化などに131億ドル(約1兆5000億円)を投じた。
「強力な成長に向け積極投資すべき時だ」と語るマクミロン。地元のアーカンソー州ではネットを使い、利用者が留守でも食品宅配を可能にする宅配ボックスの実験を始め、ロボットを活用したネット注文専用の物流施設「マイクロ・フルフィルメント・センター」の建設も急ピッチで進んでいる。
アマゾンは百貨店のシアーズ、おもちゃチェーンのトイザラス(米国法人)など米国の小売り大手を次々と経営破綻に追い込んだ。その脅威に対抗している会社は「アマゾン・サバイバー」と呼ばれる。ウォルマートはその筆頭である。
マクミロンはウォルマートのCEOになるために生まれてきた男だ。生まれはテネシー州メンフィスだが、歯科医の父親は程なくアーカンソー州に居を移し、マクミロンが16歳の時、ウォルマートの本社がある同州のベントンビルに転居した。1984年、高校生のマクミロンが夏休みのアルバイトで生まれて初めて働いたのはウォルマートの配送センターだった。以来、彼はウォルマート一筋の人生を送る。
アーカンソー大学からMBA(経営学修士)を取得するためタルサ大学に進んだマクミロンは「卒業したら本社でバイヤーになりたいので、トレーニングがしたい」とウォルマートに掛け合い、在学中にタルサ店のアシスタント・マネージャーになった。
1991年にMBAを取ると、予定通りウォルマートに入社。本社で正式なトレーニングプログラムを受けてバイヤーになる。釣り道具の購買担当から始まり、食品、衣類、工芸品、家具など様々な商品を扱った。
2005年に創業者の名前を冠した会員制卸売スーパー、サムズクラブの社長兼CEOに昇進。マクミロンはミネラルウォーターや洗剤の隣に、お買い得なダイヤモンドネックレスや高級ワインを並べる「トレジャーハント」などのアイデアで、急成長したコストコへの反撃を試みた。
有料会員になると、この記事の続きをお読みいただけます。
記事もオンライン番組もすべて見放題
初月300円で今すぐ新規登録!
初回登録は初月300円
月額プラン
1ヶ月更新
1,200円/月
初回登録は初月300円
※2カ月目以降は通常価格で自動更新となります。
年額プラン
10,800円一括払い・1年更新
900円/月
1年分一括のお支払いとなります。
※トートバッグ付き
有料会員になると…
日本を代表する各界の著名人がホンネを語る
創刊100年の雑誌「文藝春秋」の全記事、全オンライン番組が見放題!
- 最新記事が発売前に読める
- 毎月10本配信のオンライン番組が視聴可能
- 編集長による記事解説ニュースレターを配信
- 過去10年6,000本以上の記事アーカイブが読み放題
- 電子版オリジナル記事が読める
source : 文藝春秋 2022年4月号