世界最大の小売企業をネット向けに変革した男 ダグ・マクミロン(ウォルマート社長兼CEO)

世界経済の革命児 第66回

大西 康之 ジャーナリスト
ニュース 経済 企業
ジャーナリストの大西康之さんが、世界で活躍する“破格の経営者たち”を描く人物評伝シリーズ。今月紹介するのは、ダグ・マクミロン(Carl Douglas McMillon、ウォルマート社長兼CEO)です。
世界経済の革命児(ロイター=共同)
 
ダグ・マクミロン ©ロイター=共同

 EC(インターネット・ショッピング)大手のアマゾン・ドット・コムは2017年、米英で450ヶ所の実店舗を展開する食品スーパー、ホールフーズ・マーケットを137億ドル(約1兆5200億円)で買収した。

「Just Walk Out(レジで支払いをせず、商品を持って店の外に出るだけ)」を合言葉に、「Amazon GO」「Amazon Fresh」などの無人決済店舗を展開し、リアルへの進出を目論むアマゾンは既存の小売業を殲滅しようとしている。

「そうはさせじ」とリアルからネットに進出し、アマゾンの猛攻を凌いでいるのがウォルマート。米国を中心に1万1000のリアル店舗を展開する世界最大の小売り会社を、その辣腕でネット時代に適応させたのが、2014年に就任した5代目社長兼CEO(最高経営責任者)のダグ・マクミロンだ。

 ウォルマートはこのほど、2022年1月期に物流施設の自動化などに131億ドル(約1兆5000億円)を投じた。

「強力な成長に向け積極投資すべき時だ」と語るマクミロン。地元のアーカンソー州ではネットを使い、利用者が留守でも食品宅配を可能にする宅配ボックスの実験を始め、ロボットを活用したネット注文専用の物流施設「マイクロ・フルフィルメント・センター」の建設も急ピッチで進んでいる。

 アマゾンは百貨店のシアーズ、おもちゃチェーンのトイザラス(米国法人)など米国の小売り大手を次々と経営破綻に追い込んだ。その脅威に対抗している会社は「アマゾン・サバイバー」と呼ばれる。ウォルマートはその筆頭である。

 マクミロンはウォルマートのCEOになるために生まれてきた男だ。生まれはテネシー州メンフィスだが、歯科医の父親は程なくアーカンソー州に居を移し、マクミロンが16歳の時、ウォルマートの本社がある同州のベントンビルに転居した。1984年、高校生のマクミロンが夏休みのアルバイトで生まれて初めて働いたのはウォルマートの配送センターだった。以来、彼はウォルマート一筋の人生を送る。

 アーカンソー大学からMBA(経営学修士)を取得するためタルサ大学に進んだマクミロンは「卒業したら本社でバイヤーになりたいので、トレーニングがしたい」とウォルマートに掛け合い、在学中にタルサ店のアシスタント・マネージャーになった。

 1991年にMBAを取ると、予定通りウォルマートに入社。本社で正式なトレーニングプログラムを受けてバイヤーになる。釣り道具の購買担当から始まり、食品、衣類、工芸品、家具など様々な商品を扱った。

 2005年に創業者の名前を冠した会員制卸売スーパー、サムズクラブの社長兼CEOに昇進。マクミロンはミネラルウォーターや洗剤の隣に、お買い得なダイヤモンドネックレスや高級ワインを並べる「トレジャーハント」などのアイデアで、急成長したコストコへの反撃を試みた。

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source : 文藝春秋 2022年4月号

genre : ニュース 経済 企業