著名人が母親との思い出を回顧します。今回の語り手は、澤田瞳子さん(作家) です。
先日、歯医者から帰った75歳の母が「お昼ご飯買ったよ」とマクドナルドのひるまック(ランチセット)を広げたのでびっくりした。しかもその日発売の期間限定商品のパイまで入っている。
「人生でほとんど初めて入ったようなものだから。前に並んでいたお兄さんに買い方聞いたら教えてくれて」
なるほど新製品を買ったのは、その方のアドバイスゆえか。それにしても幾ら興味を持っていたとはいえマクドナルドとは、と母のアクティブぶりに驚いた。
もともと高校教師をしていた頃、「僕たち結婚したいんです」と相談に来た生徒に、「止めても聞かないだろうけど、いきなり結婚はリスクが高い。まずは同棲から始めたらどう?」と答えて、教頭からこってり叱られた人である。一方で何事にも生真面目で、書類仕事をさせれば完璧にこなす細やかさは、戦中戦後に10人の子を育て上げた物静かな職人の祖父と、お嬢さま気質で大胆だった祖母の性格を共に受け継いだと見える。
一方で私はと言えば見事に祖母にしか似ていないので、たとえば一緒に料理をしてもどうもかみ合わない。言いたいことは大量にあるだろうが、それを母が黙ってくれている限り、私はいまだ彼女に甘えていると言えよう。
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source : 文藝春秋 2022年8月号