〈テキスト版〉浜崎洋介×與那覇潤「《紀尾井町床屋政談》ゆでガエル日本『戦後は続くよ選挙後も?』」

〈テキスト版〉浜崎洋介×與那覇潤「《紀尾井町床屋政談》ゆでガエル日本『戦後は続くよ選挙後も?』」

浜崎 洋介 文芸評論家
與那覇 潤 評論家
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文藝春秋digitalは、7月5日(火)、文芸批評家の浜崎洋介さんと、評論家の與那覇潤さんによるオンライン対談イベント「《紀尾井町床屋政談》ゆでガエル日本『戦後は続くよ選挙後も?』」を開催しました。

参議院議員選挙を前にしたこともあり、「自民党圧勝」が予測されていた選挙への思いから対談はスタート。やがて平成期に志向された「右」と「左」両サイドからの脱戦後、岸田政権の特色、日本の政治家に求められる資質、日本人にとっての「成熟」の必要性……と、縦横無尽に話題は展開していきました。対談のテキスト版をお送りします。

「安倍元首相銃殺」前の“無風”

 浜崎洋介(以下、浜崎) 今日は與那覇潤さんとの連続対談、題して「紀尾井町床屋政談」の第2回です。選挙前の放送ですので、與那覇さんと一緒に選挙も含めて「平成」の意味など、歴史的な話もできればと思います。ということで、まず参院選の投票日が7月10日ですが、そちらから。

 與那覇潤(以下、與那覇) 次の日曜だから、いよいよ目前ですけど、日本は全体的に何の緊張感もないですよね。ここまで緊張感のない選挙も久しぶりだなと思います。

 浜崎 本当にないですね。結果は予想されているとおり、ほぼ自民党の圧勝になるでしょう。野党でここが期待できるんじゃないかみたいな議論もほぼ盛り上がっていない。自民党に対する批判も決して少なくはないのに、なぜか出来レースになってしまっています。

 與那覇 そうですね。岸田文雄政権に関していうと、今の自民党は岸田さんがトップ、幹事長の茂木敏充さんがナンバー2、政調会長の高市早苗さんがナンバー3ですね。茂木さんはもともと日本新党から脱自民や政治改革を謳って政界入りし、いろいろあって自民党に入った人じゃないですか。高市さんもリベラル派寄りの無所属としてデビューした後、新進党を経て自民党に移りましたよね。平成初頭に「これからは非自民の時代。自民党的なぬるま湯政治を変えるんだ」と言って登場したふたりが、今、自民党のナンバー2と3になって、その上に岸田さんがいると。

 かつて脱戦後を主張していた2人の上に、よくも悪くも戦後的な岸田さんが座っているという構図ですが、とにかくこの幹事長・政調会長の「平成コンビ」は仲が悪くて、子供じみた喧嘩の様子がしょっちゅう報じられる。そうすると、なにもしないようでいて「ザ・昭和」な岸田さんが、妙に大人びて見えてくる(笑)。そうした謎の安定感も、自民党の楽勝ムードの背景ではないでしょうか。

 浜崎 なるほど。今の話は平成政治の延長線上に現政権の構造を指摘したものなので、「平成とは何だったのか」というテーマにもつながりますね。與那覇さん自身は、平成は右も左も、脱戦後を目指した時代だと言われていたと思いますが。

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「右」と「左」、それぞれの脱戦後

 與那覇 そうなんです。左側が主張する「脱戦後」は分かりやすくて、非自民政権を作ろうという話ですね。55年体制下では自民党の一党支配で、野党の力は極めて低いものだったので、自民党に取って代わりえる政党を擁した二大政党制にしたい、そのためには野党も現実主義になっていこうということで、社会党が没落して民主党に変わりました。一方で、右からの「脱戦後」で最も大きいのは、一国平和主義の克服です。一国平和主義とは憲法9条を絶対視して、自衛隊を海外に出さない体制ですが、そうした立場を揺るがす転機は湾岸戦争でした。国連が行う平和維持のための活動であれば、自衛隊も国際貢献すべきで、「日本は軍事的には他の国と、一切関わりません」という姿勢は違うのではとする意識が生まれてきた。

 そのふたつは平成の初頭からはっきりしていましたが、小泉純一郎さんが首相になった頃から、右側がいう脱戦後に、自衛隊の海外派兵に加えて「脱田中角栄」が入ってきたんです。都市部の富を地方に回す体制はいい加減やめないと、今後は経済成長できないよという話が出てきた。もう一つは靖国参拝ですね。歴史認識に関して、いつまでも戦争の反省ばかりしなくていいじゃないかという主張も、同時期に前面に出てくるようになりました。

 浜崎 ただ、その同じ「右」のなかでも、今では財出派と緊縮派の二派がありますよね。前者が高市さんで、後者が茂木さん。高市さんは、経済政策の面での「田中角栄」への回帰を求めているわけですが、茂木さんは「脱田中角栄」で、ネオリベ的な改革を推し進めようとしている。その点、政治的には「脱戦後」を語っていた二人が、今や自民党の政調会長と幹事長として覇権を争っていて、その上に岸田さんがいるという構図です。

 でも、だからこそと言うべきか、岸田政権には違和感を感じざるを得ないんです。今、茂木さんと高市さんは党内闘争をしているわけですが、党内闘争とは政治の方向性を決める際の意志のずれから起こるものですから、二人が何をしたいのかは分かるんです。でも、岸田さんには、そういう意志が見えない。国民の空気を読んでいるだけで、ある時はAと言い、ある時はBと、その場限りの発言をするだけだから、結局矛盾だらけの政策になってしまう。コロナ対策ひとつを見ても、季節性のインフルエンザと同じ「5類指定」にするなどの緩和策を全く講じない一方で、しかし、観光客はどんどん入れると。方向性がなく、一体何がしたいのかが分かりません。

岸田政権の「方向性のなさ」

 與那覇 なるほど。岸田さんは「自分は国民の声を聞く総理です」という姿勢で一貫していますが、その国民からの支持をつなぎとめられているかと言えば、正直疑問もあります。今回の選挙で勝つことは間違いないですが、インフレ・値上げの本格化と、猛暑下での節電要請が国民に不評で、議席予想の変遷に照らしても少し勢いが削がれてきたように見える。電力問題の短期的な解は原発再稼働になりますが、3.11のトラウマから「原発を動かします」と言うと民意が反発するとわかっているので、なかなか踏み切れない。

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source : 文藝春秋

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