著名人が父親との思い出を回顧します。今回の語り手は、吉村萬壱さん(作家)です。
父は徳島の工業高校を出て役所に勤めたが、もっと「男らしい」仕事がしたいと大手ゼネコンに転職した。大阪で幾つものビルの現場監督をし、高度経済成長の波に乗って順調に出世した。
小学生だった私と弟は、隠れてコソコソと悪いことをするような「男らしくない」子供だったせいか、ある日親に言われて父の会社に「見学」に行かされた。教育目的だったのだと思う。現場の土地の雑草抜きを命ぜられた我々は、普段は優しい父が部下を激しく叱責するのを見て目を丸くした。
父は、自分は会社から何億もの資金を任されており「期日と予算さえ守ったら、この金はどう使うてもええんや」と息子達に言った。それを証明するかのように、昼休みの父と一緒に食べたホテルのてんぷら料理の値段は1人前1万円もして、子供心に、それまで知らなかった父のダークサイドを垣間見た気がした。
父は徳島から大阪に出てきて生まれて初めてチャーハンを食べた時、「世の中にこんなに美味いもんがあるんか」と感激したらしく、一緒に中華料理屋に行くと必ず食べ切れないほどの量を注文したが、絶対に残さなかった。
有料会員になると、この記事の続きをお読みいただけます。
記事もオンライン番組もすべて見放題
初月300円で今すぐ新規登録!
初回登録は初月300円
月額プラン
1ヶ月更新
1,200円/月
初回登録は初月300円
※2カ月目以降は通常価格で自動更新となります。
年額プラン
10,800円一括払い・1年更新
900円/月
1年分一括のお支払いとなります。
※トートバッグ付き
有料会員になると…
日本を代表する各界の著名人がホンネを語る
創刊100年の雑誌「文藝春秋」の全記事、全オンライン番組が見放題!
- 最新記事が発売前に読める
- 毎月10本配信のオンライン番組が視聴可能
- 編集長による記事解説ニュースレターを配信
- 過去10年6,000本以上の記事アーカイブが読み放題
- 電子版オリジナル記事が読める
source : 文藝春秋 2022年9月号