在宅医療「笑顔でピース」で親を見送る

大特集 理想の介護と最期

奥野 修司 ノンフィクション作家
ライフ 医療

看取りに必要な「希望」「満足」「納得」を得る方法

夫を看取った直後の根岸さん家族

 手元に不思議な写真がある。

 ご遺体の周りで、家族や兄妹たちと一緒に医師や看護師が笑顔でピースサインをしているのだ。旅立たれた直後に撮影されたのだろう。場所は病院ではなく、自宅である。

 この写真を撮ったのは、昨年『なんとめでたいご臨終』を出版した小笠原文雄(ぶんゆう)医師(70)。日本在宅ホスピス協会会長で、岐阜市内でクリニックを開業している在宅医療のパイオニアだ。たいていの人はこのピースの写真を見ると、「ほんと?」と疑うが、これが小笠原医師には日常なのだという。

 小笠原医師は、これまでに独居61人を含む1000人以上の患者をその自宅で看取ってきた。

 以前、小笠原医師の訪問診療に初めて同行させてもらったとき、私は唖然とした記憶がある。彼やスタッフが、死に直面した患者や看取る家族と笑い転げながら話をしていたからだ。それだけでも常識外れなのに、臨終直後のご遺体の前で、家族と一緒にピースサインで写真を撮っているとはどういうことだろう。

「旅立つ人が希望死、満足死、納得死ができたら、死別の悲しみはあっても遺族は笑顔で死を見送ることができるんですよ。本人は笑顔で清らかに旅立つことができ、家族は笑顔で看取れる。だからこそピースができるし、“なんとめでたいご臨終”なんです」

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source : 文藝春秋 2018年07月号

genre : ライフ 医療