今執筆中の『ギリシア人の物語』の第三巻をもって、私の作家生活も五十年になる。
それで、本格的な、つまり勉強して考えてその結果を書くという歴史エッセイは、これで終わりにしようと決めた。
集中力が衰えた、のではない。一年もの間集中力を持続するには欠かせない、体力が衰えたのだ。
そういうわけかこの頃は、五十年間西洋史を書いてきて、何を学んだのかと考えるようになっている。
三作ほど出版した頃だから昔の話になるが、何かの用事で母校を訪れた。私の母校は、学習院大学の哲学科である。そうしたら、学生時代の私を相当に痛めつけた、ハイデッガーを教えていた教授に出会った。ドイツ哲学を講ずる学者にしては皮肉を解する人だったが、そのときもこう言った。「この頃はきみも、勉強するようになったらしいね」
それで私も、シレッとした顔で答えた。「おカネを払って買っていただいているものですから」
つまり私は、作家になっていなかったら、学習院の伝統に忠実に優雅な有閑マダムになっていたのである。それが物書きになってしまったので、勉強もせざるをえないようになったというわけだった。
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source : 文藝春秋 2017年09月号