TPPの脱退を決めたトランプ政権は、将来も戻る意思がないことを明確にしている。
安倍政権にとっては大打撃である。この政権は、どの政権よりも日米同盟強化に取り組んできたからである。それに、アベノミクスを仕上げるには、第3の矢である構造改革が欠かせない。それには、貿易自由化という開放政策が要る。
戦後の日本の生産性向上は、貿易自由化というガイアツ(外圧)を使って国内の構造改革へのナイアツ(内圧)を引き出す内外連繋圧力の賜物だった。ところが、1990年代後半以降の20年に及ぶデフレと「失われた時代」の中で、日本は本格的な貿易自由化に参画できず、米欧や新興国に遅れを取った。
その上、今世紀に入ってから、日本を取り巻く内外の状況が急激に変化している。中国企業が世界市場に急速に進出し、AIIB(アジアインフラ投資銀行)のようなブレトンウッズ体制とパラレルな国際機構を設立し始めた。日本の企業は、人口減少に伴って海外市場の需要をつかむことが不可欠になっている。そして、米国は、世界からの撤退を始めつつある。米国をアジアに深く関与させるには、アジアと米国の経済関係を一層強固にすることが必要になっている。
通商戦略が再び、国家戦略の要として求められる時代となってきた。
それとともに、日本が世界の自由貿易体制を守る上で、指導力を発揮してほしいとの期待も広がっている。
ジョン・アイケンベリー米プリンストン大学教授は、『フォーリン・アフェアーズ』誌で「トランプ政権が続く間、安倍とメルケルは、自由世界のリーダーとして、自由な国際主義を維持しなければならない。安倍はTPPモデルの自由貿易協定を促進するべきだし、メルケルは自由で民主主義的な世界のモラルの声を発するかけがえのない立場にある」と記している。
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source : 文藝春秋 2017年09月号