両陛下と比べると、市井の人々とはまだ距離がある
「恐れながら」と前もって非礼をお詫びしつつも本音を言えば、皇太子殿下は筆者にとっては今も「ナルちゃん」なのである。
昭和61年2月から皇室担当を命じられ、直面した最大の“試練”は、百名山を次々と踏破する彼の山行に懸命について回ることだった。お妃探しが当時の最大の関心事。「まずは人柄を知らねば」と。殿下は26歳、こちらは39歳。なまり切った体にむち打ち、あごを出しながら幾つ登ったか数えきれない。
テント泊となった南アルプスの山頂で、星空を仰ぎつつナルちゃん差し入れの「シーバスリーガル」を酌み交しながら語らった。目を輝かせて山の素晴らしさを語る彼の姿に「大自然と音楽や仏像など美しいものが好きな好青年」と思ったことは覚えているが、疲労で酔いつぶれ中身は忘れてしまった。結果、記者仲間と一緒のテントで大いびきをかき、気付いたら1人用テントに追い出されていた。翌朝顔を合わせると、殿下から「そういえば夜中にクマの唸り声が聞こえたのかと思いましたよ」とからかわれた。
伯耆大山(ほうきだいせん)登山のあとの出雲大社参拝。勝手に「ナルちゃんに成り代わり」と念じておみくじを引き、ご本人に「中身を知りたいですか?」と尋ねて「はい」と身を乗り出したところで「結婚、急がぬがよし」と読み上げ、あはははと笑い転げさせたこともあった。
下界に降りて、美智子さまに「記者の皆さんも浩宮の山登りにおつきあいされ大変ですね。弟の礼宮は山は好きではないようですのに」と気遣ってもらった。ただし、後日お目にかかると訂正が入った。
「礼宮から訂正しておいてと言われましたので、お伝えします。礼宮も山は好きなのだそうです。ただし登るのが嫌いなのだと申しております」
有料会員になると、この記事の続きをお読みいただけます。
記事もオンライン番組もすべて見放題
初月300円で今すぐ新規登録!
初回登録は初月300円
月額プラン
1ヶ月更新
1,200円/月
初回登録は初月300円
※2カ月目以降は通常価格で自動更新となります。
年額プラン
10,800円一括払い・1年更新
900円/月
1年分一括のお支払いとなります。
※トートバッグ付き
有料会員になると…
日本を代表する各界の著名人がホンネを語る
創刊100年の雑誌「文藝春秋」の全記事、全オンライン番組が見放題!
- 最新記事が発売前に読める
- 毎月10本配信のオンライン番組が視聴可能
- 編集長による記事解説ニュースレターを配信
- 過去10年6,000本以上の記事アーカイブが読み放題
- 電子版オリジナル記事が読める
source : 文藝春秋 2016年10月号