前立腺は男性のみが持つ生殖器官で、膀胱のすぐ下に存在しています。「前立腺液」という精子を保護するための液体を分泌し、精嚢の精子に栄養を与えているのです。ここにできる悪性腫瘍が「前立腺がん」です。
前立腺がんは、日本人男性がこれから最も注意すべきがんの1つです。こう言うと、医療事情にいくぶん詳しい人は、疑問を持たれるかもしれません。
「前立腺がんって、安全ながんなのでしょう?」と。
確かに前立腺がんは、「進行の遅いがん」というイメージを持たれることが多い病気です。5年生存率は98.6%と良好な数字を保っており、全てのがんのなかで、最も生存率が高いことは確かです。
ただ、油断は禁物です。というのも近年、日本における前立腺がんの患者数は急増しているからです。1975年の患者数は2000人程度でしたが、2001年には2万人超まで増加し、最近では毎年10万人弱の新規患者が見つかっています。今では男性のがんの首位に君臨しており、2020年の死者数は約1万2800人です。
患者数が増加した背景には、日本人の長寿化があげられます。前立腺がんは自覚症状がほとんどないまま進行するため、かつては前立腺がんが診断される前に、別のがんや病気で亡くなる事例が多かった。ところが、近年は平均寿命が80歳に届いたこともあり、前立腺がんが発見される人が増えてきたのです。
また、がんを簡単に見つける方法が確立したことも大きな要因です。こうして症状のない潜在患者が洗い出された結果、患者総数が右肩上がりに伸びています。
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source : 文藝春秋 2022年12月号