軍事国家の「大元帥」から平和国家の「象徴」へ
激動の時代を生き抜かれた昭和天皇の素顔がついに明らかにされる。
多くの初公開史料によって編まれた61巻の「歴史」を最高のメンバーが読み解く
初公開「お父(もう)さま、お母(たた)さま」への手紙
「実録」が公表されなければ永久に知ることができなかった事実
半藤 昭和天皇が崩御されてから26年、『昭和天皇実録』(以下『実録』)の完成が公表されました。刊行されるのは数年先ですが、文藝春秋はいち早く入手した。よって本日、編集部に集まり、読み、かつ議論をせよとのことで、我々3人が呼ばれたわけです(笑)。さあーと読んだだけで、さて、どのくらい深く読めますかね。
それにしても、全部で1万2000ページという、たいへんな量ですから、それぞれ興味のある部分から読み始めましょう。
それに先立って、プロの歴史学者である磯田さんから、実録とは何ぞや、ということを教えていただけますか。
磯田 まず申し上げたいのは、『実録』の公表に立ち会えたことに、私は歴史学者として震えるほどの感動を覚えています。
実録のような帝の一代史の叙述は、中国の漢の時代、司馬遷が『史記』で、天子(皇帝)の記録を「紀」としたものが古い。古代中国で皇帝がおかくれになれば、「実録」として編纂する伝統が生まれ、その制度が、梁・隋、とくに唐で確立されていき、東アジア全域にひろがりました。王朝が滅んだ時は、次の王朝が、この実録をもとに『唐書』とか『明史』といった「正史」を作る。1000年以上にわたって、朝鮮でもヴェトナムでも、中国の文化圏にあった東アジアの国々では、このような文化が成立してきました。沖縄でも琉球王国が『球陽』という実録に近いものを編んでいます。
しかし、これらの国々では王制が倒れ、いまや日本においてのみ、古代から東アジアの人々が共有してきた連綿たる歴史叙述の伝統が受け継がれているのです。一般の日本人の方から、どうして実録を作らなくてはならないのか、と問われたら、それは「世界に対する日本人の責任である」と私は答えたい。これこそ世界文化遺産であると言っていい存在、それが『実録』であると思います。
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source : 文藝春秋 2014年10月号