再現性の低い生命科学は捏造事件の温床だった──。
起こるべくして起きた「小保方事件」に打つべき手とは
いまだかつて科学的な話題が、これほどまでにTV、新聞、雑誌等のメディアを騒がしたことがあっただろうか。小保方晴子・理化学研究所(理研)研究ユニットリーダーによるSTAP論文事件は、論文発表から三ヵ月を経ようとする今なお、大きく世間を揺るがしている。
既に理研の調査委員会も認定しているように、ほとんどの科学者はこの論文は明らかな研究不正であると見なしており、画像の切り貼りや使い回し、他人の文章の盗用などは、理由の如何にかかわらず絶対に行ってはいけないというのは、大学生でも知っていることである。
いくら小保方氏が「STAP細胞はありまぁす」と強弁しても論文が正しい方法に基づいていない以上、そこから得られる結論はゼロ(白紙)というのが、科学の掟である。STAP細胞があるかないかを議論することは、UFOがあるかないかを議論することと等しい。例えば「UFOを見た」と主張する人が差し出した証拠写真が、タライを糸で吊り下げたようなチープな合成写真だったら、その人がUFOを見たという主張を信じる人はいないだろう。現時点では「STAP細胞はない(というに等しい)」のである。
この事件は、小保方氏という特異なキャラクターが産んだ空前絶後なものと世間一般には受け止められている。しかしこの事件は、実は日本の科学界が内包する構造的な歪みが限界まで達し、起こるべくして起こったものなのである。「空前」でもなければ「絶後」でもない。むしろこのままその歪みを放置すれば、さらに多くの研究不正が堰を切って流れ出すだろう。今こそわれわれ科学者は、この大問題を契機として、自らその改革に乗り出さなければならないのだ。
私は、日本分子生物学会という生命科学で最大級の学会において、研究不正を撲滅する取り組みを八年前に始め、そのリーダーとして様々な不正事件に関わってきた。その経験を基に、科学界が内包する矛盾点をずばり解剖し、病理を調べ、その治療方針を示したい。
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source : 文藝春秋 2014年06月号