特別寄稿 小保方捏造を生んだ科学界の病理

実は医学論文の7割が再現不可能

中山 敬一 九州大学教授
ニュース サイエンス

再現性の低い生命科学は捏造事件の温床だった──。

起こるべくして起きた「小保方事件」に打つべき手とは

記者会見に臨む小保方晴子氏 ©文藝春秋

 いまだかつて科学的な話題が、これほどまでにTV、新聞、雑誌等のメディアを騒がしたことがあっただろうか。小保方晴子・理化学研究所(理研)研究ユニットリーダーによるSTAP論文事件は、論文発表から三ヵ月を経ようとする今なお、大きく世間を揺るがしている。

 既に理研の調査委員会も認定しているように、ほとんどの科学者はこの論文は明らかな研究不正であると見なしており、画像の切り貼りや使い回し、他人の文章の盗用などは、理由の如何にかかわらず絶対に行ってはいけないというのは、大学生でも知っていることである。

 いくら小保方氏が「STAP細胞はありまぁす」と強弁しても論文が正しい方法に基づいていない以上、そこから得られる結論はゼロ(白紙)というのが、科学の掟である。STAP細胞があるかないかを議論することは、UFOがあるかないかを議論することと等しい。例えば「UFOを見た」と主張する人が差し出した証拠写真が、タライを糸で吊り下げたようなチープな合成写真だったら、その人がUFOを見たという主張を信じる人はいないだろう。現時点では「STAP細胞はない(というに等しい)」のである。

 この事件は、小保方氏という特異なキャラクターが産んだ空前絶後なものと世間一般には受け止められている。しかしこの事件は、実は日本の科学界が内包する構造的な歪みが限界まで達し、起こるべくして起こったものなのである。「空前」でもなければ「絶後」でもない。むしろこのままその歪みを放置すれば、さらに多くの研究不正が堰を切って流れ出すだろう。今こそわれわれ科学者は、この大問題を契機として、自らその改革に乗り出さなければならないのだ。

 私は、日本分子生物学会という生命科学で最大級の学会において、研究不正を撲滅する取り組みを八年前に始め、そのリーダーとして様々な不正事件に関わってきた。その経験を基に、科学界が内包する矛盾点をずばり解剖し、病理を調べ、その治療方針を示したい。

有料会員になると、この記事の続きをお読みいただけます。

記事もオンライン番組もすべて見放題
初月300円で今すぐ新規登録!

初回登録は初月300円

月額プラン

1ヶ月更新

1,200円/月

初回登録は初月300円
※2カ月目以降は通常価格で自動更新となります。

年額プラン

10,800円一括払い・1年更新

900円/月

1年分一括のお支払いとなります。
※トートバッグ付き

電子版+雑誌プラン

12,000円一括払い・1年更新

1,000円/月

※1年分一括のお支払いとなります
※トートバッグ付き
雑誌プランについて詳しく見る

有料会員になると…

日本を代表する各界の著名人がホンネを語る
創刊100年の雑誌「文藝春秋」の全記事、全オンライン番組が見放題!

  • 最新記事が発売前に読める
  • 毎月10本配信のオンライン番組が視聴可能
  • 編集長による記事解説ニュースレターを配信
  • 過去10年6,000本以上の記事アーカイブが読み放題
  • 電子版オリジナル記事が読める
有料会員についてもっと詳しく見る

source : 文藝春秋 2014年06月号

genre : ニュース サイエンス