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三島弥彦というスプリンターがいた。1912年ストックホルム五輪に、金栗四三と共に日本人として初出場を果たした伝説的な選手だ。
NHKで放送中の大河ドラマ「いだてん~東京オリムピック噺~」第11話で、生田斗真演じる三島は同五輪陸上男子100m、200m、400mの短距離3種目で奮闘するも、結果は屈強な海外勢の前に惨敗。そして、こんな台詞を残す。
「日本人に短距離は無理です。100年掛かっても、無理です」
それから107年が経った。今、日本短距離陣は2020年東京五輪の100m決勝を複数人が狙えるまでに成長している。
6月28日の日本選手権100mを制し、9秒97の日本記録を持つサニブラウン・アブデルハキーム(米フロリダ大)。日本人で初めて「10秒の壁」を突破した桐生祥秀(日本生命)。10秒00を2度マークしている山縣亮太(セイコー)。そして、自己記録を10秒04と伸ばしてきた成長株の小池祐貴(住友電工)――。彼らは9秒台と、その先に何を見ているのか。
あの日以来、桐生はずっとため息を浴びながら走ってきた。
13年4月29日、広島市で行われた織田幹雄記念国際100m予選。京都・洛南高3年生の17歳は10秒01という驚異的なタイムを叩き出した。伊東浩司の10秒00に次ぐ当時日本歴代2位。世界の陸上史上、10代選手では最も速いタイムだった(風向風速計が世界記録の認定条件を満たす仕様でなかったため、正式にジュニアの世界タイ記録とは認められなかったが)。
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source : 文藝春秋 2019年8月号