1998年、まだ15歳の若さで日本の音楽シーンに登場した宇多田ヒカル(39)。デビュー当時にブレーンとして関わった松尾潔氏が、当時の衝撃を語る。
初めて彼女の歌声を聴いた瞬間に、「これは格別の逸材だ」と感じました。音楽好きだけでなく、R&Bをまったく知らない老若男女までを魅了するほどの力量を持っていました。当時日本でもR&Bシンガーが増加中でしたが、彼女はR&Bをネイティブに体内に取り込んでいた。まだ10代の少女で歌声はあくまで歳相応なのに、米国の黒人かというほどのグルーブ感を醸し出す稀有な才能に驚かされました。加えて、藤圭子の娘だということ、さらに作詞・作曲まで全て自分でこなしていると知り、完全にノックアウトされました。その後、彼女のデビューを手伝うことになるのですが、実際に会うまでに少し時間があり、その間にプレゼントが送られてきました。添えられていたカードには「私のあしながおじさんへ」と書かれていて、我々の関係を一言で表す言語感覚にも驚かされましたね。
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source : 文藝春秋 2023年1月号