国家安全保障戦略など安保三文書の改定を受けて、日本の防衛論議はかつてないほど熱を帯びてきている。議論を加速させているのは、ロシアのウクライナ侵略に触発された中国の台湾侵攻の可能性や、活発化する北朝鮮の弾道ミサイル発射への国民の危機感だ。本稿では不安を抱く国民に現実的な解を提示したい。
まずは敵の実力を正しく測ること。本誌2022年10月号で詳述したように、中国軍には台湾への本格的な着上陸侵攻能力はない。海上輸送、航空・海上優勢の能力不足だけでなく、データ中継衛星など軍事インフラの整備が著しく遅れている。
同様に、中国、ロシア、北朝鮮には日本への着上陸侵攻能力はない。問題は、いずれも日本へのミサイル攻撃能力を備えている点だ。これこそ我々の直面する「いまそこにある危機」であり、このミサイルの脅威を封じることを最優先すべきだ。
我が国の防衛論議に欠けているのは、まさにいま「平時の戦争」状態にあるという危機感だ。「平時の戦争」とは、抑止力を高めることで相手の脅威度を低減させ、血を流す戦争を回避する攻防を指す。古代中国の孫子の兵法に由来する人民解放軍の『三戦』に通底する思想で、中国ではこの「輿論戦」「法律戦」「心理戦」を「砲煙の上がらない戦争」と呼ぶ。
そこで提案したい。友軍である米軍と武器・弾薬などを融通し合うことを。ともに「平時の戦争」状態を自覚すれば当然すぎることだろう。
具体的には、反撃能力とミサイル防衛について米軍の装備を融通してもらい、さらに通常弾頭型ミサイル対策として建造物のシェルター化を図る。この三点を同時進行すれば、さしたる予算をかけず、短期間で眼前の危機への対策が実現する。
まず反撃能力の保有については、自公両党の合意のもと、筆者が提案してきたのと同様の構想が実現の方向にある。米海軍が保有するトマホーク巡航ミサイルを有償で融通してもらい、不足分は日本の負担で補充する。モデルとなるのは横須賀を母港とする空母ロナルド・レーガンの打撃群のイージス艦12隻と攻撃型原潜、随伴するオハイオ級巡航ミサイル原潜が搭載する合計500発。日本も48隻の護衛艦と22隻の潜水艦を加えると約500発になる。護衛艦のVLS(垂直発射装置)の改修に手間取るようなら、米海軍が過去に採用した4連装発射装置を2組ずつ甲板に搭載する方法もある。
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source : 文藝春秋 2023年2月号