驚くべき「超小説」の誕生だ。「短歌や詩、小説、批評といった異なる表現を、ひとつの器に溶かし込みました」という著者の山﨑さんは、第1詩集『ロックンロールは死んだらしいよ』で中原中也賞候補、第2詩集『ダンスする食う寝る』で歴程新鋭賞を受賞した気鋭の詩人。本書が小説デビュー作となる。
舞台は2028年の東京。ある日、詩人の「わたし」が住むこの街を大地震が襲う。インフラは遮断され、日に日に死傷者数が膨れ上がり、経済も低迷する混乱の中、「わたし」は「もう、詩は読めないし、書けないだろう」と悟る。そして、書くこととは何か、という問いをめぐる記憶の旅が始まるのだった――。
「プルーストの『失われた時を求めて』では、主人公がマドレーヌの香りを嗅いだことで様々な記憶が甦る有名なくだりがありますが、本作も、そうした記憶のトリガーになるものが膨大に散りばめられています。テーゲベックや梅の香り、バッハやジョン・レノンといった音楽に触れた瞬間、『わたし』は過去に戻っていく。船が水面を揺蕩うように、過去と現在の往還を繰り返すんです」
作中でひときわ魅力を放つ虎子という登場人物も、失敗を重ねながら詩や短歌、漫才やコントを書き続ける。それは、書き手としての山﨑さん自身を追求することでもあった。本書で試みたのは、「テキストから『山﨑修平』という作者を消失させる」ことだったという。
「虎子の存在は、私の分身のようなものです。ただ、書いているうちに彼女がひとりで暴走して、私を飲み込んでしまった。後からゲラを読み直したら、これは誰が書いたんだ、と恐ろしさすら感じました。誤解を恐れずに言えば、虎子に憑依されていたのかもしれません」
ハウスミュージックからジャック・デリダの文学理論まで幅広い知識を引き合いに、淀みなく語る山﨑さん。スーツ姿の知的な佇まいは、大学教授にも、優秀なビジネスマンのようにも見える。
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source : 文藝春秋 2023年2月号