2019年、国内のインターネット広告費がテレビメディアのそれを上回った。その要因の一つになったのがYouTubeの台頭だ。広告費という土俵で言えば、以降テレビは今まで一貫して負け続けている。
では、テレビは今後どうしたらいいのか。それが今回の問いである。
一旦電波の権利を無視して言えば、テレビの強みは、開局以来50年以上エンターテインメントや情報をお茶の間に届けてきた歴史そのものだと私は思っている。それは、たくさんの実験的番組を作り、人々を楽しませてきた成功の蓄積である。不特定多数の興味を長時間惹きつけるには、実は特殊な技術、能力、文法を要する。かっこいいミュージックビデオやショートフィルムを作る能力とは全くの別物だ。これは新興のYouTuberが易々と真似できるものではないと信じたい。
一方、テレビには失敗の蓄積もたくさんある。「自主規制のせいでテレビはつまらなくなった」というフレーズが毎度聞こえてくる。いくらか事実は含まれるが、テレビには半世紀以上失敗を重ねてきたからこその「正しき自主規制」があると私は思っている。やらせ、捏造、差別表現など、テレビはあらゆる失敗を経験してきた。この失敗の蓄積は立派な財産であり、YouTuberは持ち得ないものだ。加えて言えば、「テレビは自主規制でつまらなくなった」という言説は、もしかしたらネット系番組の売り文句から始まっているのでは? と疑っている。「テレビではできないことやっちゃいました」というあれである。その言説を、怠惰なテレビマンたちが言い訳として拝借しているというグロテスクな状況に見えて仕方がない。
私がテレビ東京で制作した番組『ハイパーハードボイルドグルメリポート』(2017〜20年)では、リベリア共和国の墓場に暮らす元少女兵、台湾マフィア組長、シベリア奥地に暮らすカルト教団信者など、様々な「ヤバい人のヤバい飯」を紹介してきた。全方位的にハイリスクな番組であるが、これが各賞の受賞や世界配信、書籍や漫画、ポッドキャストにまで敷衍していったのは失敗の歴史を踏まえ、微に入り細に入り点検したからに他ならない。
しかし問題なのは、テレビ局内で「正しき自主規制」よりも「悪しき自主規制」の存在が大きくなっている点だろう。現在のテレビ局はスポンサーや大手芸能事務所にばかり目配りして、年配の社員の多くはどうやって社内評価を上げるか、あるいはどうやったら社内評価が下がらないかに日夜知恵を絞っている。
これがどういう結果を招くかと言えば、端的に視聴者に向けた番組作りができない、という状況である。視聴者より先にスポンサーのご機嫌を伺い、芸能事務所との関係にビクビクし、さらに上司の顔色を窺って作られる番組。そんなの誰が見たいと思うだろう? 今後テレビ局は海外の市場にも番組を売っていかなければならないが、本腰を入れて動いている局は少ない。それも、目の前の減点に怯えているからである。
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