性暴力を撲滅する方法

炎上と分断を超えて

柚木 麻子 作家
ニュース 社会

 映画監督や俳優による性暴力が相次いで報じられた2022年春、映画業界の性暴力・性加害の撲滅を求めるステートメントを発表しました。私と作家仲間の山内マリコで文責を担い、作品の映画化経験のある作家18人が賛同者として名を連ねました。実際にはもっとたくさんの協力者の意見が反映されています。ある先輩からは「出版界がセクハラが酷いのは皆知っていることなのに、他業界にだけ口出しするのは卑怯な気がする」と指摘されました。納得し、文中に「映画界が抱える問題は、出版界とも地続きです」と入れました。ステートメントを公表すると、俳優の橋本愛さんや水原希子さんが連帯してくれるなどの広がりが生まれました。その一方で、この問題について勉強してアップデートしているのは女性ばかりだなとも痛感しました。

 最大の問題は勇気を出して告発した女性の顔写真やインタビュー、被害者に寄り添う人たちの文章は載せるけれど、自社のスタンスを明らかにしない大手メディアの体質です。

 今回の取材依頼は、日本の取り組むべき101の問題点の一つとして、日本の性暴力を撲滅するにはどうしたらいいか、というものでした。論者は全部で101人いるとのこと。本来研究者が答えるべきテーマで、私が下手なことを答えれば、他の問題より比重が軽いと思われてしまう。また、全体の論調はマジョリティ寄りだけど、一応、性暴力を語っている女性が一人いるんだからまあいいか……というガス抜き要員にもなりかねない。さらに他に100人識者がいるということは、私とは性暴力について意見が異なる方がいるかもしれません。ですので、最初に記者さんを通じて月刊文藝春秋さんとしてのスタンスをうかがいました。できたら、「映画界と地続きである、出版界の性加害も撲滅していくという意志に編集部は賛同します」と、最初に一文いれていただきたいと。

 それは、難しいとのことでしたし、雑誌という媒体の性格上、方針を明確にできないのかもしれません。では、この場を借りて、逆に会社としての文藝春秋さんにインタビューさせてください。

 文藝春秋さんは、私にその名を冠した媒体でインタビューを依頼する、性暴力に関するステートメントについて誌面で取り上げるということは、この文面に賛成というお立場なんですよね? であれば文面に載っている出版界のセクハラ問題について認める、ということなんでしょうか? 私は社としての見解を聞きたいです。

 創業者である菊池寛ならこう答えたんじゃないでしょうか。「ステートメントは100%支持します。出版界のセクハラを撲滅するための第三者機関を立ち上げる」と。彼はノンポリでミソジニー(女性嫌悪)な面もありますけど、時代の波を読んで対応するのが人一倍早かったですから。出版界にセクハラがあると認めたうえで変えていくという見解を出せば、企業のポジティブイメージに繋がります。新しい読者の獲得、特に若年層には効果的でしょう。

 大手メディアの上層部の方たちに言いたい。女性がいくら連帯してもなかなか性暴力をなくすことができないのは、権力や決定権をもつ側が何も発信しないからだ、と。

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source : 文藝春秋 2023年2月号

genre : ニュース 社会