著名人が母親との思い出を回顧します。今回の語り手は、新川博(編曲家・キーボーディスト)です。
我が家には作家や詩人、編集者たちがよく来ていた。覚えているのは、ひどく訛りのある男。寺山修司だ。
朝目覚めて応接間に行くと、明け方まで母が仲間と飲んだ痕跡が残っていることがよくあった。石油ストーブを焚いた生ぬるい空気や、煙草の香り。皆が食べ残した寿司桶を覗いて、かんぴょう巻きや卵焼きをつまんで朝食にしたこともある。そして壁じゅう本だらけの廊下を通って学校に行くのだ。
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source : 文藝春秋 2020年6月号