日本の経済の中心地、東京・丸の内。敏腕経済記者たちが“マル秘”財界情報を覆面で執筆する。
★史上最大の開発競争
新型コロナの治療薬・ワクチンを巡る史上最大の開発競争が展開される中、日本勢も続々と名乗りを上げている。
武田薬品工業(クリストフ・ウェバー社長)は血液成分から作る治療薬の開発を米国で始めると表明。田辺三菱製薬(三津家正之社長)はカナダ子会社を通じワクチン開発に着手、今年8月までに人での臨床試験を開始すべく当局と協議に入りたい考えだ。従来とは異なる製造技術を使ったワクチンに関し、大阪大学との共同開発を決めたアンジェス(山田英社長)のようにベンチャーも動いている。
既存薬の転用で有望な芽もある。富士フイルムホールディングス(古森重隆会長・CEO)のグループ会社がインフルエンザ向けに開発した「アビガン」はその代表例だ。催奇形性の恐れがあるため新型インフル流行に備えた政府備蓄に限られるという異例の薬だが、震源地の中国で有効性が報告されている。海外から導入後に帝人(鈴木純社長)の子会社が国内開発を担った気管支喘息薬「オルベスコ」は作用機序が不明だが効果が期待される。
これらの企業には株価が高騰した所もある。とはいえ、世界規模で見渡すと、感染症分野において日本勢は欧米企業に比べかなり劣勢だ。というのも日本勢が開発の主戦場としてきたのは高血圧などの生活習慣病やガンの分野。いわば先進国の病気だったからだ。これらは国内だけで大型薬に育つ可能性がある上、巨大市場の米国で売り込みやすい。何より継続投与だから着実な増販が見込める。
他方で感染症はどちらかというと途上国の病気で、植民地時代からの歴史を持つ欧米勢と違い、日本勢は販路がない。高い薬価も望みにくい。
そんな日本勢にあって、もともと抗生剤に強みを持ちインフル薬「ゾフルーザ」の開発で知られる塩野義製薬(手代木功社長)は例外的存在。大成功を収めている抗HIV薬の開発では途中で英グラクソ・スミスクラインと手を組んだが、今回は存在感を示せるか。これからが試金石だ。
★HIS突然の親子復縁
コロナショックで観光・運輸業界が壊滅的な中、いち早く業績予想を大幅に下方修正したのが旅行大手のエイチ・アイ・エス(HIS、澤田秀雄会長兼社長)だ。3月初めに公表した今年10月期の予想は従来比で売上高が15%近く消失するというもの。阿蘇山ロープウェイ建設の取り止めもあり11億円の最終赤字に転落する見込みだ。今期、澤田氏は経営体制強化と本業回帰でHISを一段の成長に導く構えだったが予想外の事態で躓いた。
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source : 文藝春秋 2020年5月号