本書を手に取られたら、まずその分厚さを意識しながら背表紙を見ていただきたい。いや、タイトルじゃなくて、下の方。光文社新書、とあるでしょう。読み始める前にそれに気づいた私は驚愕した。だって、新書といえば薄くて手軽がウリなはずなのに、何これほんとに新書!? と思わず二度見した。なんと600ページ超え。著者が記したあとがきに、出版までにおよそ20年を要したとあった。だてに分厚くした訳では決してない。
自身も「セルフポートレイト写真(自画像的写真)」の作品で世界的にその名を知られるアーティストである著者が、600年に渡る西洋・日本美術史における有名な自画像について縦横無尽に持論を展開する「実践的自画像論」である。読了後の感想は、ひと言、圧巻。どんなふうに圧巻だったか、ナビゲートしよう。そう、「ナビゲート」という言葉がふさわしい、まるでアートの時間旅行のようなとてつもない1冊なのだ。
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source : 文藝春秋 2020年3月号