揺れる柱を一本ずつ、そうっと抜き取って
空気の骨が見えるまで 見つめ続けてください。
「適切な距離については諦めて、快速電車に身をゆだねます」
あの“宣言”以降、やけにビルが目立ちます。
街から人が消えたのは、みんなが塔になったから。
すべての柱を抜かれても 倒れない次元を求めて。
けれど、いつか崩れゆく。背中越しに響きはじめている。
ころがってきた積み木の柱をひろいあげ、
わたしはただ 握りしめていた。
その骨が 空気のように あたたかく溶けていくまで。
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source : 文藝春秋 2020年6月号