現代の皇帝は正真正銘のマルクス・レーニン主義者だ
マシュー・ポッティンジャー氏は、ロイター、ウォール・ストリート・ジャーナル紙の中国特派員を経験後、継父の影響で海兵隊に入隊して沖縄に勤務。イラク、アフガニスタンに派遣された。トランプ政権の大統領補佐官マイケル・フリン氏に誘われホワイトハウスへ。2018年のペンス演説はじめ、対中政策の転換に深くかかわった。中国語に堪能で今年1月には台湾の国立政治大学で講演している(文中の太字は主に習近平氏の発言)。
習近平総書記は2月に、「全人類に中国の社会的システムのソリューションを与えるべきだ」とスピーチした。彼の野望は膨らむばかりだ。その実現のためならば、リスクを取ることを辞さないし大きな投資もする。世界を騒がせた偵察気球はその事例の一つと見ていいだろう。
昨年10月に開催された中国共産党の党大会で、毛沢東以来、中国で最も強力な指導者として今後10年間にわたる地位を確立させた。党の最高幹部を忠実な部下で固めると同時に、経済政策に精通する人材を排除。党規約にスターリン・毛沢東主義的な「闘争」の概念を盛り込んだことも特筆に値する。なぜなら鄧小平以来の「改革と開放」の時代から次なる時代へと一歩踏み出すという決意の表明に他ならないからだ。
党大会は、習氏が2012年の総書記就任以来、党の公的コミュニケーションを通じて緻密に醸成してきた世界観が明文化された点でも重要だった。中国語の演説や文献などの多くは翻訳された際、北京によって故意にマイルドに翻訳されてしまうが、中国語の原文を読めば、習体制の目的や手法ははっきりと見えて来る。
そこに書かれているのは、反政府活動に対する恐怖、米国への敵意、ロシアへの共感、台湾統一、そしてとりわけ西側の資本主義に対する共産主義の最終的な勝利の確信だ。習氏の最終目標は、現代の国民国家システムを、北京を頂点とする新しい国際秩序に置き換えることである。
習氏の願望はモスクワのそれと同様、達成することは非現実的かもしれない。しかし習近平と、氏が「最高の、最も親しい友人」と呼ぶウラジーミル・プーチン大統領はともに、「手の届く範囲のものは掌握もできる」と信じている。そのことを、世界の政策決定者は肝に銘じる必要がある。
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source : 文藝春秋 2023年4月号