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食の危機から目を背けるな!

編集長ニュースレター vol.15

新谷 学 (株)文藝春秋 取締役 文藝春秋総局長
ニュース 社会 政治

 いつもご愛読いただき、ありがとうございます。

 背筋が凍るような恐ろしさと、はらわたが煮えくりかえるような怒りが湧き上がってくるのが今月号の緊急特集「日本の食が危ない!」です。

 いまこの国の食料自給率は実質10%程度。アメリカの大学の研究チームのレポートによれば、局地的な核戦争が起きた場合、世界の餓死者の3割を日本が占めるといいます。その数なんと7200万人! 人口の6割に及ぶという。それにもかかわらず、政府は農家には「コメつくるな」と減反政策を強要し、一時的に牛乳余りが問題になると酪農家に「牛殺せ」と圧力をかけています。

 一方で、アメリカが押しつける農薬まみれの野菜や、遺伝子組み換え作物は唯々諾々と受け入れる。しかも日本の農地は次々に中国などに買い占められ、海外から安全な食料を調達しようとしても、これまた中国の“爆買い”に圧倒されているのが実情です。

 こうした惨状を徹底的に告発する東京大学大学院教授の鈴木宣弘さんのレポートは、決して大袈裟ではなく、全日本人必読です。

 鈴木さんはこう訴えます。

〈安全保障に力を入れる岸田文雄政権は、防衛予算をGDP比約2%まで引き上げるとし、43兆円もの防衛費を計上しようとしている。だが、武器の購入には巨額のカネを費やすのに、国民の生命に直結する食料は海外に依存したままである。古来、「兵糧」は防衛の要とされてきたが、日本人は胃袋をアメリカや中国に握られたままである。これでは真の国防などありえない。〉

 では、どうすればいいのか?

 鈴木さんのレポートには、危機を脱するための「希望のシナリオ」も記されています。

 緊急特集「日本の食が危ない!」は他にも力の入った記事が並んでいますが、もう1本、平松洋子さんの「失われた味を求めて」をご紹介します。

 平松さんは「週刊文春」で「この味」を連載されていますが、同誌の編集長になった後、私のいきつけの西麻布のきりたんぽ鍋の店で会食した時のことが忘れられません。名刺を差し出す私に平松さんはこう言ったのです。

「あなたが右手で握手して左手で刺す人ね」

 確かに私は当時から「親しき仲にもスキャンダル」などと偉そうなことを言っていましたが、いきなりのカウンターパンチにうろたえていると、平松さんは続けて、「あら、これは最高の誉め言葉よ」。

 なんて切れ味鋭くてカッコいい人だろう、と痺れました。

 平松さんは記事の中で、渡辺京二さんの著書「逝きし世の面影」を引きながら、〈居酒屋の軒下に下がる縄暖簾や杉玉〉や〈盛り塩を置く小料理屋の玄関先〉など、失われゆく日本の食の「面影」への哀惜を綴っています。

 鈴木さんは「マクロの視点」で、平松さんは「ミクロの視点」。いずれも日本人として、目を背けてはならない現実です。

 文藝春秋編集長 新谷学

source : 文藝春秋 電子版オリジナル

genre : ニュース 社会 政治