歌舞伎界を変革する新たなリーダーになるために
(1)梨園の旧弊と戦う
昨年10月に市川團十郎白猿を襲名してから1年が経ちました。團十郎という立場になったからこそやらなくてはいけないこともあると思いますが、やはり「大事は小事より顕る」。一見、些細に思えることであっても、日ごろから目を配るようにしています。
とりわけ大切にしているのは、裏方やスタッフ、舞台に関わる全ての方々の意見や気持ちを聞くことです。歌舞伎という伝統文化を縁の下で支えているからこそ見えてくることや、感じる違和感。そうしたことにできるだけ耳を傾けるようにしています。
歌舞伎は毎日舞台に立ちますから、興行が始まると、改まって話を聞く機会はなかなかありません。ご家庭がある方も多いですから、東京では年に1、2回くらいでしょうか。チャンスがあるのは地方興行です。地方ではみんなで寝食をともにしますから、舞台が終わった後、「集まれる人は集まって」と音頭を取って、食事に誘うようにしています。
一緒に温泉に入ることもあります。いまどき、裸の付き合いが良いかは分かりませんが、例えば、「まだ誰にも話していないんですけど、もうすぐ子供が生まれるんです。もう少し給料、何とかなるといいのですが」といった、楽屋やみんなの前では話せないことも出てきます。
それをほったらかしにするのではなくて、「そうか」と意を汲んで、現状を変えていくことも私の役目。團十郎という立場になると、どうしても日本特有の「忖度」が出てきて、周囲の人からは話しかけづらくなったり、言いたいことがあっても言いづらくなってしまう。会社でも部下の方からプライベートな話はなかなかできないじゃないですか。やはり上司から歩み寄って、「最近どうなの?」と聞く姿勢を持たないとダメだと思います。
コロナ禍以降、歌舞伎界でも、様々な面で舵を切ることが増えて、毎年のようにシステムが変わりました。ここ最近、それについていけないという人たちが増えてきて、裏方さんたちとご飯に行くと、色んなことが耳に入ってくるようになりました。歌舞伎界の良い部分は守っていくべきですが、いまだに旧態依然としたところがあるのも事実です。逆に、変えてはいけないものを変えられてしまうこともある。
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