執筆には、少しざわざわとしているところのほうが集中できる
(1)いつでもメモが書けるようにノート、iPad、筆箱を持ち歩いている
友だちとの待ち合わせまでの時間など、ちょっとした空き時間でも小説についてのメモを書けるように筆記用具とモレスキンのノートとiPadを持ち歩くようにしています。昔は100枚綴りのB5サイズのキャンパスノートを愛していたのですが、2021年にART OMI(アート オミ)というアメリカのニューヨーク州コロンビア郡のライターズ・イン・レジデンスに招かれて、1カ月ほど滞在したんです。レジデンスでは外で仕事をしている人が多くて、外の椅子やベンチに座って、ノートやiPadを膝に載せて執筆している作家さんをよく見かけて、私も真似をしてみました。外の空気の中で書くといつもと気持ちが違って楽しかったです。そのとき、駅で買ったモレスキンのA5サイズのノートがページ数があるのに持ち歩きやすくて、帰国後もなんとなく使っています。
ノートには執筆中の小説の主人公の似顔絵や暮らしている場所、部屋の間取り、育った場所など様々なことを書き留めています。似顔絵は顔だけでなく、全身を描きます。そうすると、例えば走り出すシーンで人物の肉体がどう動くかなどがより鮮明になるので……。
主人公が住んでいる部屋の窓から見える風景を絵にすることもありますし、主人公が住んでいる町や村の地図を書くこともあります。ノートの右側のページだけに書いていって、左のページは空けておきます。右のページについて何か書き足したいことがあったときに左のページを使います。
設定を細かく決めて書き込んでいくと、自然と人物達が行動するようになるので、あとは自動的に出来ていく場面を眺めて、それをできるだけ忠実に書き留めています。ラストを決めたこともないです。
2003年にデビューしたころは、雑誌で主人公のイメージに近い人物の写真を何人か探してノートに貼っていました。私の小説の主人公はすっぴんだったり、すごく地味だったり、だるだるのTシャツを着ていたりすることもあるのですが、雑誌にはきれいにお化粧をした、おしゃれな人が載っていることが多くて、なかなかイメージに合う写真が見つからないので、下手だけど自分で描くようになりました。
小説を書き始めた小学生のときから、最初に登場人物の似顔絵を描いていました。小説は高校のときにスランプに陥って、書けなくなってしまったのですが、大学に入ってまた小説を書くようになってからは、常にノートを持ち歩いて、いつでもどこでも思い浮かんだことを書けるようにしています。何でもないときに、あ、あの人はああいうことをしゃべるんだとか、あの人はこういう食べ物が好きそうだとかいったことが思い浮かびます。小説を書いているときは、その小説世界へのスイッチが常に頭の中にあって、何かの拍子にぱっとそちらへ切り替わってしまうときがあるので、そういうときのためにノートは必ず持ち歩いています。
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