いま中国の北京にいる。少し長めの滞在で日本人の多いマンションに住んでいるのだが、共同スペースの本棚には昔の住人たちが寄贈していったと思われる日本語の本がたくさん並んでいて、今回はこの本棚の中から選書した。
エッセイの面白いところは、世代じゃなくてもリアルタイムでなくても、その時代の空気感が伝わってくるところだと、林真理子さんや重松清さん、小林聡美さんのエッセイを読んでいて思った。北京の本棚に並んでいたそれらのエッセイが書かれた年代は昔だったが、上手くタイムスリップできた。
『オヤジの細道』では白桃の缶のシロップの味が、身体に悪そうな甘い味から、あっさりした健康的な味に変化したと書いてあり、著者が昔の方の味を懐かしんでいるのだが、そういえば世の中が健康志向になり、お菓子やデザートの味が一斉に変化していった時期があったなぁと懐かしく思い出した。
『みんな誰かの愛しい女』では「最初で最後の出産記」と題して妊娠出産について触れている章があるが、書いてあるのは妊娠出産についてだけど、この章を通して、著者がどれだけ真剣に一途に執筆に向かってきたかが伝わってくる。
『イニシエーション・ラブ』は恋愛小説とも言えるけど、私はミステリー小説として読んだ。なぜなら日本の本屋さんで見かけたときから、巻かれた帯に書いてある「必ず二回読みたくなる」という文言が気になっていたからだ。読後、人間の心理の不可解さに改めて気づかされる作品だったなと思った。
何を考えているのか分からない他人に対して抱くなんともいえない謎をまざまざと体験させてくれる、とても面白い作品だった。
『殺人鬼フジコの衝動』と『女という病』の両方に、親友の女性に男性を奪われた女性が親友の女性を殺すという事件が出てきた。『殺人鬼フジコの衝動』は創作、『女という病』は実際に起きた数々の事件に対しての考察だが、殺人事件にまで発展してしまうほどの三角関係のもつれが、作家の執筆欲をどれだけ刺激するか知れたような気がした。
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source : 文藝春秋 2023年5月号