「文藝を基調として、あらゆる方面に、ひろがつて行かう」
文藝春秋社員として長く勤務した作家の永井龍男は『文藝春秋三十五年史稿』でこう書いている。
「大正十四、十五の兩年は、『文藝春秋』にとつて特に記念すべき一時期である。菊池寛のジャーナリストとしての天才が、對社會的に一一手應えを感じた、いわば最初の開花期であつた」
実際、大正13年に訪れた分裂の危機を乗り越えた「文藝春秋」は大正14年に入ると大発展を遂げ、発行部数は新年号の2万6000部から1年後の大正15年新年号の11万部へと4倍増という伸びを示したのである。
こうした大発展の動因はどこにあったのだろう?
一つは、大正14年2月号から新聞に初めて全三段の広告を打ったことである。菊池寛は2月号の編集後記で広告を打つのは「もつと部數を出し、もつといゝ雜誌にしたい」からだと語り、10月号編集後記では「廣告をすることに依つて部數が增せばもつと、安い雜誌が作れるわけである」と、広告と部数増と定価減の相乗効果を力説している。彼が新聞王エミール・ド・ジラルダンの発明になる高度資本主義の原理を正しく理解していた証拠といっていいだろう。
ただし、むやみやたらと広告を打ったわけではない。広告を打った月と打たなかった月を比較して効果を確かめながら部数を調節していたのである。しかも、広告の文面については自らコピーを考え、どんな文句がターゲットに最も刺さるか知恵を絞っていた。鈴木氏亨は『菊池寛傳』でこう述べている。
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source : 文藝春秋 2023年5月号