2005年頃だったと思うのだけれど、アニメーションプロデューサーの丸山正雄さんのところに行ったら、何冊か本が積み上げられていて、「どれでも好きなのを原作にして、アニメにしてやって」といわれた。漫画だけではなく絵本だとか小説も交えられていて、手にとって見たのが髙樹のぶ子『マイマイ新子』(新潮文庫)だった。『マイマイ新子』は、小学校3年生の髙樹さん自身が主人公のモデルであるらしく、昭和30年の山口県防府(ほうふ)市国衙(こくが)という土地の周辺が舞台となっていた。主人公新子の祖父が登場してはこのようなことをいうのだった。「何もないただ青麦の畑が広がっているだけにみえるけれど、1000年前には国の都じゃったんじゃ」。周防国の国府があったから防府なのだった。
1000年の時を気持ちが飛び越える描写をしてみたい。そうは思ったのだが、1000年前の光景があまりにもぼんやりしていた。せめて、1000年前にその土地にいた人物の名前ひとつくらいわからないか。平安時代なので周防守くらいは調べられるだろうか、と思ったら西暦974年に周防守に任ぜられたのが、百人一首にも歌が残る歌人清原元輔だった。元輔といえば、その娘は清少納言だ。推定966年生まれという説がある。974年時点で満8歳。新子とほぼ同年齢。一人前に程遠いこの年齢ならば、周防にも同行していたのじゃないか。
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source : 文藝春秋 2023年5月号