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「清く正しく美しく」をモットーにした宝塚歌劇団に激震が走ったのは昨年12月のことです。
12月28日発売の「週刊文春」が、宝塚歌劇団所属の演出家・原田諒さんによる助手のA氏への性加害を報じたのです。
宝塚歌劇団はホームページ上で、「ハラスメント事案があったことは弊団として確認しており」と基本的な事実関係を認め、原田さんが既に退職していることも明かしました。
ところが、「内情は大きく異なり、歌劇団は私の退職までの真相を隠蔽している」と、原田さんが自ら筆を執ったのが、「宝塚『性加害』の真相」です。
「週刊文春」には、原田さんがA氏に対して「何度もホテルに誘い」「一緒に裸で寝よ」といった言動を繰り返したと書かれています。
一方で、原田さんは本誌に寄せた手記の中で、「Aに対して恋愛感情や性的欲求を抱いたことは一度としてない。当然、指一本触れたこともなければ自宅に入れたこともない」と主張しています。
性加害として報じられた「1週間で何回(自慰を)するの?」という発言には思い当たる節があるようですが、A氏とは「冗談で下ネタを言い合える関係だと勘違いしてしまった」ことから出た言葉であり、原田さんは手記でA氏から送られてきた下ネタのLINEも公開しています。そして今では「反省している」とも綴っています。
本誌編集部では、原田さんとA氏とのLINEのやりとりを精査しましたが、一方的な性加害と思われるものはありませんでした。
では、原田さんはなぜ宝塚を去らなければならなかったのか。
手記の中では、A氏の母親が宝塚に対して、原田さんを辞めさせなければパワハラとセクハラで「週刊文春」にリークすると迫る場面がしばしば描かれています。
原田さんは宝塚側とのやりとりを録音しており、「文春に言うという相手方の矛を収めさせるため」「こちらに任せてほしい」と押し切られ、結局、謝罪文を書かされた上、宝塚退職を受け入れざるを得なかった経緯を克明に記しています。
誤解のないようにあえて申し上げますが、この手記を掲載することで私は「週刊文春」の責任を追及しているわけではありません。そもそも私にその資格はありません。
私は2012年から2018年まで「週刊文春」編集長を務めましたが、当時この情報がもたらされていれば、おそらく掲載していたと思います。
加害者とされる人物の謝罪文があり、宝塚側は基本的な事実関係を認め、原田さんに退職を求めたわけですから。
現在、原田さんは宝塚歌劇団を相手に訴訟を起こしています。
ジャニーズ性加害事件の真っただ中で、この宝塚をめぐる問題は、私たちにとって、重くて苦い教訓を突き付けているのです。
文藝春秋編集長 新谷学
source : 文藝春秋 電子版オリジナル