太平洋戦争は、不可避だったのではない。それは避けることができた。しかし、それを阻んだ大きな要因の一つが、当時の日本の官僚組織、すなわち官邸、海軍、陸軍、宮内省などの「消極的権限争い」だった。
「消極的権限争い」とは、政治的に得点にならないこと、役所の権限にプラスにならないこと、面倒な仕事を押しつけられることについては、手を挙げない、飛び出さない、目立たないようにする霞が関処世術である。
とりわけ国家的危機のような事態では、決断すること自体が組織防衛上の大きなリスクになる。そのようなとき、日本の官僚組織は、組織としての「非決定」を決め込む組織文化を宿している。そして、そのことが国家的危機を「ジリ貧からドカ貧」に深化させるのではないか。
私は福島原発事故を取材する中で、そうした疑問を抱いた。
原発が炉心溶融しているのに、日本政府が緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム(SPEEDI)を住民避難のために使わなかった。これを所管している文部科学省は、それを使った場合、住民の間にパニックを引き起こすリスクに怖気づき、危機のさなかにそのシステムの運営とその結果の評価を原子力安全委員会に押し付けようとした。
この国の官僚組織は、国の一大事の時、自分の組織を守ることを最優先させる。国民の人命も国益も二の次なのだ。
私の日本の組織文化に対する疑念は、エリ・ホッタの“Japan 1941 Countdown to Infamy”(Alfred A.Knopf, 2013)を読んで、確信に近くなった。
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source : 文藝春秋 2014年7月号