珍獣フィーバー

名画が語る西洋史 第132回

中野 京子 作家・ドイツ文学者
エンタメ アート

名画をのぞき込んでみると…

 

ヴィザード

 いったいこれは何なのだ? 顔面が黒い空洞になったエイリアンか? 違います。18世紀ヴェネチアで一時期流行ったヴィザードという女性向けの黒仮面。初期には日焼け止め用だったという。紐もないのになぜ落ちないかといえば、裏面にボタンがあり、それを歯で嚙んで支えるらしい。要するにこの仮面をかぶっている限り、ものも食べられないし会話もできない。倦怠期の夫が妻に勧めたのかもしれませんね。

 


 

珍獣フィーバー

 東京にパンダが初来日の際、熱狂した人々が動物園に押し寄せた。同じことが18世紀のヨーロッパでも起こっていた。対象はパンダではなく、「アフリカ産野獣」との触れ込みのインド産のサイ。名はクララ。

 当時サイの寿命は100年とされ(実際はその半分以下)、固い鎧のごとき皮膚の重なりと大重量から凶暴と思われ、クララも各地でそう噂された。おしとやかな淑女だというのに。

 インド生まれのクララの生い立ちは――幼き日に親を殺され、東インド会社の取締役であるオランダ人に引き取られて家族の一員となった。すっかり野性を失い、人慣れし、ビールとオレンジが好物の可愛いペットだったが、体が大きくなりすぎて持て余し気味になっていた。

 オランダ人船長ヴァン・デル・メールが船荷を積んで到着したのはそんな頃だ。船長とクララは互いに一目惚れし、離れがたくなる。起業家精神旺盛で、貿易船の仕事にも飽きがきていた船長は、クララと巡業して暮らしを共にすることを決めた。クララも彼の顔をなめまわすほどなついた。

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source : 文藝春秋 2023年8月号

genre : エンタメ アート